---------マユのライバル---------
視線に気づいて赤くなった彼女に、部長が話し続ける。
「今日、1年はどこでもいいから、取りあえずどっかしらユニット組もうぜの日なんだ。いいとこ来たよ」
「ハイ」
その時、マユの推しシイナユウキが、腰掛けていた机から降りた。
「おーい、ちょっと皆聞いて。まだドラム決まってないとこ…」
部長の声がけに被せ気味に、シイナユウキのハスキーな声が響いた。
「はーい!ハイッ!俺っ、臼井さんとやりたいです!」
必死!どうしたの?人たらし。その言い方って、まるでコクハク‥
みんなワッと笑って、一気に和やかになったけど、マユの表情が明らかに曇った。
「椎名、ガッつきすぎ」
「言い方!ツボる」
「やらし~笑」
この二人は既にお互い知ってる感じ。仔ウサギちゃんも驚いたようだけど、イヤそうには見えなかった。
「マジ?なんなの?」
シイナユウキのファンと思われる女子の一部から、不穏な声が。そっか、マユのライバルはいっぱいいるんだ。その中でも、この仔ウサギちゃん、臼井さんは最大のライバルかもしれない。普段の余裕が全然なく、耳まで赤くなったシイナユウキを見て、思った。
「落ち着け、椎名。それを言うなら"組みたい"だろ?」
部長が笑いを堪えながら諭して、部長バンドの先輩方がヒューと口笛を吹いた。
「そうです、ソレ。間違えた」
「組んずほぐれつ…、要は絡みたいんだよな?」
「林!お前、下ネタ禁止(笑)」
部長の言い方で、シモネタはエロティックな事限定の言い回しなんだとわかった。そっか、色々間違って覚えてた。動揺を隠せないシイナユウキの一生懸命さがなんだか可哀想で、シモネタを持ち出した先輩にムカムカした。日本は、子供も行くコンビニで成人向けの雑誌が買えたり、エロティックな事に関して男性が全然悪びれず、なんだか寛容な独特の空気があるのを感じてた。大好きな日本の、唯一嫌なところ。
シイナユウキは、すごくフレンドリーだったけどジェントルで、馴れ馴れしい下心みたいなものを感じなかった。多分、そこの加減が絶妙に女子にとっては心地いいんだ。親しげで、且つ大切にされているという感覚。あの感じは‥やっぱりちょっと珍しいかも。もしかしたら帰国子女?
デモンストレーションで先輩二人と仔ウサギ・臼井さんが演奏する流れになり、皆で興味しんしんで見守った。
「ん?」
マユが、腕を組んできた。
「めっちゃ上手いんだってー。楽しみ」
言いながら、マユの表情はなんとなく暗かった。あったかい手の感触。
どうか、神さま。
守ってください。マユの恋。