---------ユイとマユ---------

 

放課後、荷物をまとめて教室を出ると、隣の4組の前で例のヤマグチアヤが腕組みして話す横に、小柄なかわいらしい女子が二人いた。

 

「きたー!」

 

「ヤバイ!めっちゃタイプなんだけど」

 

「でしょー?カンペキ」

 

サムズアップして語るアヤの隣に立ち、挨拶した。

 

「よろしく。長谷部香織です」

 

「よろしくね、平野真侑です。カオリンって呼んでいい?」

 

「いいよ」

 

綺麗に結った三つ編みをヘアバンドのようにあしらった、パッチリした瞳のかわいい子。やっぱりここでもカオリン呼びなんだ。差し出した右手を握ると、赤ちゃんのように温かい。あ、この感じ。なんか、既視感。

 

「よろしくー。清水由依です」

 

ニコニコして小首を傾げて挨拶してくれたもう一人の子は、毛先をゆるく巻いた髪に小さな卵型の輪郭、ぷっくりしたピンクの唇が印象的で、日本のグランマが贈ってくれたThe Empress doll(お雛様)のよう。

 

ワォ、二人とも、なんて可愛いの。

 

「めっちゃかわいい‥」

 

お世辞抜きで思わず呟いていた。

 

「またまたー!カオリンこそビジュヤバくない?優勝🏆!」とマユの笑顔。

 

「優勝?」

 

ヤバイにはさいあく(terrible)とサイコー(fucking good)の真逆の意味がある。どっちにしろかなりの強度。この場合いい方に取っていいのかな。

 

「ルックス大事。ギター結構重たいからね、カオリン、タッパもあるし、ギター映えするよ」

ウィンクしながら話すアヤに、思わず聞いた。

 

「タッパー?」

 

「タッパ、つまり身長。ウソー、言わない?」

 

「「言わなーい」」

 

二人が口を揃える。

 

「そう?うち建築屋だから特殊なんかな?建物にも良く使うけど。まぁ、いいや。とにかくカオリン、映えるから」

 

「ありがと。嬉しい」

 

コンプレックスの身長が役に立つかも。

 

「ねー、なんか甘いもの食べに行かない?」

 

ユイの提案にマユの瞳が輝いた。ちょっとファニーなぐらい大きく目を剥いて、

 

「いこ!カオリン。ミニ歓迎会するよ」

 

柔らかく腕を組んできたマユの、人懐こいながらもこちらがイヤがっていないかを慎重に確かめるような優しさが心地良くて、気持ちがほどけた。なんか,好き。この子。

 

「おーし、行くよー!」

 

先に立って歩き出したアヤの後姿。颯爽としてカッコイイ。そうだよね、背が高いのも悪くないかも。

 

いつのまにか両手に花のスタイルで話しながら歩き、ちょうど来たバスに走って飛び乗り,駅ビルのカフェでパンケーキを食べる頃には、三人とすっかり打ち解けていた。

 

なんだかすごく楽。流行りを知らなくて無意識に出るボケをすかさず拾ってくれる。なんだろう?相性?ずっと前から知っていたような不思議な感覚が心地よかった。

 

微笑みながらアヤの話に頷くマユを見ながら気づいた。そっか、この子、多英にちょっと雰囲気似てるんだ。