---------下北沢③---------
「ライブ、行ってみたかったな」
「カオリンなら、お兄ちゃんに同伴頼めば行けるんじゃない?」
「そっか!老け顔もたまには役に立つなぁ」
「言い方(笑)。前から思ってたけど、カオリンってなんでいつも自分のことわるく言うの?」
「そんなつもりはないんだけど」
「いいなぁ、自分の美貌を鼻にかけず持て余す感。やっぱカッコいいわ」
「最後の方、わかんなかった。もっかい言って?」
「カッコいいよ」
「その前」
「あっははは。カオリン、きれいって褒めたの」
「そんな言い方だっけ」
「いいからいいから」
多分ちょっと違うけど、嫌なことを言われた感じは、ない。話してくれる表情でわかる。褒めてくれるけど目が笑ってない子とかいるもんなぁ。
「観に行くのもいいけど、自分でもやってみたい」
「なに?バンド?」
「うん。お兄ちゃんがベース弾くんだけど、ギター格好いいなぁって、ちょっと憧れる」
「いいじゃん。カオリン似合いそう。ウクレレ弾けるんだよね、たしか」
ママが撮ってくれた動画を多英に見せたことがあった。授業で弾いてから、優しい響きに惹かれて、月に2回教室に通っていた。音色と同じく、優しかったおじいちゃん先生に、ふと会いたくなった。
「ギターは弦が6本だし、多分ウクレレより難しいけど、ジャーン!って轟音で思いっきりコード鳴らしてみたいんだ」
「イイね!ライブやるとき、呼んでくれる?」
「もちろん!」
動画でしか観た事ないけど、自分がかきならすギターの響きがホールに満ち渡る気分ってどんなだろう。きっと無敵!他の楽器じゃ多分得られないビリビリするあの感じ。あぁ、きっといつか。
多英を、お気に入りのお好み焼きやさんに連れて行った。
「おいしいねー、ここ」
「よかった。ここしか知らないんだけど、大好きなの」
「カオリン、たこ焼きとかもんじゃ焼きも好き?」
「もんじゃはまだ食べたことない」
「今度行こう。月島においしいところあるよ」
「行くー!連れてって」
ツキシマ‥月の島。なんてムーディな名前。
ダディの赴任期間は終わったから、もうハワイに住むことはないんだ。帰る前の晩に家族みんなで眺めた夜の浜辺。
シャンパン色の月が、綺麗だったな。