---------下北沢①---------
「ねぇ、さっきからさぁ」
「なに?」
「なんでそんなに貰うわけ?花粉症?あっ、でも今のはチラシか」
「??」
「街頭で配ってるやつ、そんなに全部貰わなくていいのに」
「だって、配り終わらないとあの人たち、帰れないし」
「知り合い?」
「そんなワケないし」
多分、困った人をほっとけないママの影響。困ってるっていうか、仕事なんだけど。
気になり始めたら、無視出来なくなった。
「カオリン、優しいね」
「そんなことない。気になるから、やりすごせないだけ」
人にアプローチして、無視されたり拒否されたら、傷つくから。
「優しいよ。私、気になったことないもん」
「自己満足なのかも。自分が落ち着きたいだけなんだ、きっと」
「ふぅん、自分を俯瞰して見れちゃうんだね」
「フカン?」
「あっ、と。神様みたいな目線で、自分を外から見れちゃうこと」
「Bird's-eye view のことかな」
「わっ、素敵な表現。鳥目線!」
「分析グセ。アタマでっかち。自分のそういうとこ、あんまり好きじゃない」
「私は、好きだけどねー。自分をちゃんと持ってて、空気読んで愛想笑いとかしない。カオリンのそういうとこ、すっごく憧れる」
「多英って、いつも私のこと良く言ってくれるね」
「カオリン、私に無いとこいっぱい持ってるから」
「多英だってそうだよ」
女の子の友達に「内緒にして」って言っても、多かれ少なかれ約束は守られない。知らないうちに広まってしまったり、当の本人に問いただしても、「言わないで」って言ったこと自体忘れてしまっていたり。でも多英は約束を守ってくれた。クォーターのことを、誰も知らない。私の話を「ちゃんと」聴いてわかってくれた、初めての友達。
「愛想笑い、しないんじゃなくて出来ないんだ。オチが聞き取れなかったり、意味わかんなかったり」
「そういう時でも、笑っちゃうんだ、私。カオリン、いいよ」
「‥ありがとう」
多英といると、自分のことがほんの少し好きになれる。