---------4分の1---------

 

「日本人って、いいなぁ」

 

思わずつぶやくと、

 

「やだなぁ、カオリンだってそうでしょ」

 

「‥そうだね」

 

長谷部香織。本当はお祖母ちゃんがイタリア人のクオーターで、セカンドネームのキャスリン(Catherine)も間に入る。

 

「ホントは、違うんだ」

 

「ん?」

 

目立ちたくないから、誰にも言うつもりはなかった。でも、心細いときいつも声を掛けて傍にいてくれた多英には、ナイショは作りたくなかった。多英は、ホーム。わたしの居場所。

 

「違う国が入ってる。4分の1」

 

「どこ?‥待って、当てる!」

 

「フフフ」

 

かわいいなぁ、もう。真顔になってあれこれ考えを巡らす様子がキュートで、楽しくなった。

 

「わかった、ハワイ!」

 

「国の名前じゃないしー(笑)」

 

「あ、そっか、やだ!バカがバレちゃう。アメリカ?」

 

「ううん」

 

「えー、ヨーロッパの方かな」

 

「ん、近づいてきた」

 

「ヒントは?」

 

「ラテン系」

 

「わっ、意外。カオリン、クールだから、ドイツとか北欧のほうかなって思った」

 

「クール?」

 

「うん。なんか大人っぽくて。基本、口数少ないし」

 

「それはね、長い文喋ると、なんか間違えそうで」

 

一旦頭の中で要約するクセがついてる。

 

「間違えたっていいじゃない。わたしだって日本生まれ日本育ちだけど作文ズタボロだし、話し言葉も文法きっと変」

 

ズタボロってなんだろう。後で調べよう。

 

「臆病なんだ、きっと。笑われるのが怖くて、カッコつけちゃう」

 

この子には、弱いところ見せられる。

 

「カッコつけなくてもカオリン、キレイだし格好いいよ。で、どこの国?」

 

「イタリア」

 

「わぉ!アモーレ!」

 

「ヤメテー」

 

「クールに見えるけど、きっと愛情表現とか情熱的なんだね」

 

「やだ、下ネタ苦手」

 

「えー?どこが下ネタ?」

 

「恋愛の話って、下ネタって言うんじゃないの?」

 

「もー、カオリンてば、面白いなぁ」

 

きゅっとハグしてきた多英が、正しい意味を教えてくれた。あっぶないなーもう。まだまだ知らない単語がいっぱいある。