‐‐‐‐‐‐‐帰り道⑨‐‐‐‐‐‐‐

髪に、スッと指が通って、手のひらがうなじに触れた。泣いている為か、そこは熱を帯びて小刻みに震え、なんだか青木が急に小さな女の子になった気がした。

「ダイジョブか?」

「うん…、ゴメン」

「俺も、淋しい」

「…ホントに?」

「胸の、この辺がギュッとなってる」

青木の右手を掴んで、手のひらを左胸に当てた。伝わるかな、俺の思い。

「ドキドキしてる」

「わかる?」

「うん、私も」

そのまま手を引いて、もう一度ゆっくり抱き締めた。

容器の中に水が流れ込むように、パズルのピースが嵌まるように、二人抱き合っていると、なんだろうこの、圧倒的な安心感。満たされる感じ。

「はぁぁ」
思わず、声が漏れた。ずっと、こうしていたい。

「ショー、すき」

顔を上げて見つめてくる。

「……!」

ズキーンと立ち昇ってくる愛おしくていたたまれないような強い衝動。小さな顔を両手で挟み込んで、形の良い唇に、キスしたい。

「~~!」

髪を撫で、頬に触れた瞬間、これってつまり、二人の間で何かがここから始まるんだと気付き、始まり方ってこれでオッケーなのか、どうなのか、ヘタレな頭で、必死に考えた。

待て待て、道の往来で、本人が家族と住む家の前で、何やってんだ、俺は。
もし青木のお父さんが出てきたら、間違いなくブッ飛ばされる。

それにまだ、全然言えてないじゃん、俺の気持ち。




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