‐‐‐‐‐‐‐帰り道②‐‐‐‐‐‐‐

電車を待つベンチに座ると、青木が何やらバッグから絆創膏を出して、踵の後ろに貼り始めた。

「どうしたそれ」

「今更だけど、靴擦れ。普段履き慣れてないので来ちゃったから」

見ると、踵に当たるストラップの下の部分が、赤く腫れていた。

「うわ、相当痛いだろ、それ」

「さっきまで、全然。気が張ってたからかな、帰るってなったら急にズキズキ」

快活に笑ってごまかそうとするが、今にも破れそうなくらいの腫れ方、一緒に歩いて全く感じさせなかったのって、かなり我慢してたんだろう、それか、俺がメッチャ鈍いか。

「しんどい時、すぐ言って。俺、気づけなくてゴメン」

「そんな…、謝らせちゃってゴメンね」

顔を見合せ、お互いプッと吹いた。

「そんな華奢な靴でよく走れるなぁ」

今朝の公園のドロケーを思い出していた。たった半日なのに、すごく前のことみたいだ。

「靴擦れがなかったら、今だって走れるよ、フフフ」

微笑んだ青木の髪が微かにふわんと揺れて、電車がホームに入ってきた。

「よかった。そんなに混んでないね」

絶対青木の座る席を確保するぞと、構えた俺の気持ちを見透かすように、静かに呟いた。

並んで座り、猫が箱座りするときのように小さなバッグを両腕で抱え込むと、

「寄りかかっていい?」
と、聞いてきた。

「いいよ」

と応え、少しでも余裕を持って寄りかかれるよう、背凭れに背中をつけて、座り直す。

クッタリと頭を預けてきた青木が、「大丈夫。自然にしてて」と言った。

チェッ、カッコつけても、直ぐに見抜かれる。
いいさ、元々カッコいいやつには、敵わない。

俺には俺の…、愛し方。

愛し方?!

愛とか、恋とか、日常会話にめったに登場しない文言の、でもこの胸にくる温かい感情、何を置いても相手を守りたいという気持ち、これっていわゆる「愛」ってやつか。

よせ、バカ!
あー恥ずかしい!

思考の海にダイブして、ひとりで赤面しつつそっと隣を見ると、彼女は小さな寝息を立てていた。

寝つき、早!
寝たふり?

違う。頭の無防備な揺れ方から、ガチで眠りに落ちたのが、わかった。