‐‐‐‐‐‐‐アシスト‐‐‐‐‐‐‐

次の日、届を出しに部長の小部屋・通称V.I.Pルームに入ると、帰りに吉田さんに呼び止められた。

「槙田、ちょっといい?」

「はい?何スか」

「音楽選択の山口綾って、同じクラス?」

「いや、違いますけど。アイツは4組で、俺1組です」

「そっか、結構仲良いから一緒かと」

アイツ、早速部長に迫ったのか?肉食系!

「もしかして…、何かアプローチ来ました?」

「あぁ、ガンガンきてる」

「しまった。俺、吉田さんの名前教えろって言われて」

「別に、いいよ。面白いな、彼女」

「ファンみたいですよ」

「彼女にしてくださいって言われたよ」

ド直球。山口らしいや。

「どうするんですか」

「年下と付き合ったこと、ないんだよな」

吉田さんだったら、大人の女性も似合うな。

「向こうから言って来られんのも初で」

「多分、アイツ黙ってられない性分(たち)なんで」

「いいかも、と思ってる。わかりやすくて」

確かに!すぐ顔に出るし。

「オレ、鈍いからさ。『察してチャン』と付き合って、何回か失敗してるんだ」

「そこは大丈夫です。意思の疎通が悪かったら『察しろや!』って、ドついてきますよ」

アハッハッハッハー!
その剣幕が目に浮かんだんだろう。吉田さんのツボにハマった。

「わかった、サンキュ。とりあえず今の、内緒な。いずれバレると思うけど」

「了解です」

V.I.Pルームを出る俺の背後で、部長がまだくっくっくっと笑ってる。
山口、感謝しろ。アシストしといたぞ。

誰かと付き合うと、色々わかるんだよな、自分が。

こういうのはイヤ、
これは許せる、
ここには入ってほしくない、
ここは、わかってほしい。

今までダメだったのが○になったり、
自分の感情の激しさに驚いたり。

ある意味家族よりも近く、相手を自分のテリトリーに入れることで、知らなかった自分に、たくさん出逢う。

そんなのめんどくさいって、避けて生きてくことも出来るけど、そういうのできっと、人って成長するんだよな。

俺は、あの子の涙のお陰で、少しはマシになったんだろうか。