サイトーが、心配そうに顔を覗きこんできた。

「元気出せ」

「ウチ、元気だよ」

サイトーがいるもん。
それよりサイトーが、辛いよね。
まだまだ続く、ウチの片想い。
でも、今は近くにいられるだけでいい。

「サイトー、佑って呼んでもいい?」

「いいけど」

「あとね、メガネ、やっぱり前のゴツいやつに戻して」

「なんでだよ」

「いいから」

冗談半分、本気半分。

バスの窓から、女子の視線を感じる。ウチのせいでイケメンバレしちゃったサイトー。

今もカッコいいけど、ちょいダサの頃から、好きなものに真っ直ぐで、誠実で、男気のある、ブレないサイトーが、大好き。

キスのこと、何にも言ってこないなぁ。
でも平気。
今はまだ、そのことに触れてほしくない。
あのときの Sweet Emotion、自分でもまだよくわからないから。

でもいつかまた、あの日みたいに、そうするのが自然って雰囲気の二人に、なれたらいいな。

「やっぱり、クソ暑いだろ」

「暑い」

まだ道のり半分なのに、暑さに弱いウチの、額と鼻の頭には早くも、汗。

「ほら」

大判のタータンチェックのハンカチを、差し出してくれた。

「持ってるもん」

「そんなちっこいのじゃ、間に合わんだろ、汗っかき。タオル持ち歩け」

「ふーんだ」

でも、嬉しい。
借りたハンカチを顔に当て、目を閉じると、前と同じ、柔らかで、微かなバラの香り。

「はぁぁ」

気持ちよくて、思わず声が出た。

「何浸ってんだよ(笑)」

頭をぽんっと撫でてくれた。

「好き」

「ん?」

「いい香り」

ウチを見下ろしてハハッと笑う、サイトーの笑顔が眩しくて、もう一度胸に深く、その香りを吸い込んだ。





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