「かわいいな」
「うん。ウチの宝もの」
抱き上げて、平野に渡す。
「ホントに帰っちゃう?」
すがるような目で見てくる。なんだろう、確かに祭りの後って淋しいもんだけど。
「また来るよ」
宥めるように頭をぽんと撫でると、平野は、猫をそっと床に降ろして、
「わかった」
と小さく答えた。
「サイトー」
「ん?」
「ハグしてくれる?」
「いいよ」
向き合って、軽く手を広げると、オレの腕の中にすっぽり入ってきた。しっかり抱き締めると、お互いに抱えた不安や焦り、淋しさみたいな感情が消えていくようだった。
「あったかい」
「お前も」
顔を上げた平野と、目が合った。
また、溢れそうな、涙目。
「泣くなよ」
「泣いてない」
「オレがいるじゃん」
「頼っていいの?」
「仲間だろ」
ふっ、と笑みが漏れた。
変なの、オレたち。シナユー推し。
いとおしさがつのって、唇に軽く触れるか触れないかの、キスをした。
平野はちょっとびっくりしたようだったが、嫌がるでもなく、「もっかい」とリクエストした。
「ねんまく、ヤベエぞ。気をつけろ」
頭の中に、シナユーの声。
今度はもう少しだけ深く、唇をそっと合わせて感触を確かめた。
んー、取り込まれる。抱きしめる腕に、自然と力が入る。
……コレか!
ストップ。
静かに、身体を離した。
胸の鼓動がハンパない。
「ゴメン」
「ううん」
「帰るわ」
「うん」
軽く目眩のようなものを感じながら玄関に向かう。
靴を履いて振り返ると、笑顔の平野が、そこにいた。
「またね」
「ああ」
「ありがとう」
「そっちこそ」
いいのか、コレ。やらかした?
でもなんとなく、するのが自然だった。
いとおしかった。オレの場合、基準は、そこ。
そして、シナユーの言った通り、ねんまく、ヤバかった。
瞬時にしっかり「反応」してしまった。
変異中なオレだけど、やっぱ女子にも反応するんだ。
籠った熱を冷ますために、読売ランド前までの道をひとり、歩いて帰った。