来たときと同じく、またじわじわと民族大移動が始まった。
「混む前に、帰るか」
「うん」
駅に向かう人の流れに沿って、並んで歩いた。
「もう混んできちゃったね」
「ああ」
「手」
「ん?」
「はぐれるよ」
オレを見上げてニコッと笑う。
沸き上がる、いとおしさ。
花火に、アタマをやられたか。
黙って、手を繋ぐ。
「あったかい」
「なんでこんなに冷えてる?」
指先が、冷たかった。
「へへ、熱がみんな頭にいっちゃった」
「なんだそれ」
「花火で、ちょっとヤられたかも」
「ハハ」
各停に乗って、気づけば読売ランド前。
「降りないの?」
「さすがにもういないと思うけど、家まで送る」
「いいよー、わるい」
「いいって」
「でも嬉しい」
百合ヶ丘で降りて、平野の家までの道を二人で歩く。もう人混みはないから、手は繋いでいない。
でも、手を繋ぐ前より、二人の間の距離が縮まった気がする。物理的にも、気持ち的にも。
物理?何考えてんだか、オレ。
「サイトー、今日、いろいろありがとう」
「そっちこそ、声かけてくれてありがとな。面白かった」
もやもやした想いを抱えて百合ヶ丘へ向かって歩いたときからたった数時間なのに、遥か前のことに思えた。
あの公園を無事に通り過ぎて、平野の家近くまで辿り着いた。
「お腹空かない?たこ焼きしか食べてないし」
「たしかに」
「うち、寄ってく?作りおきの焼きそばあるけど」
うっ、焼きそば惹かれる。
「…」
「ほら、遠慮してないで、サイトーおいで!コイコイ」
犬かよ。
全く、無邪気、最強!