平野が戻って来る前に、3人は退散した。

「サイトー、ごめん!駅前に交番なぁい!」

人の良さそうなオッサンを一人連れて戻ってきた。

「もう帰ったよ、大丈夫」

警察沙汰になったら、先輩たちの大会に影響するから、かえってよかった。

「すみません、ありがとうございました」

オッサンに礼を言って、オレたちも駅に向かった。

「イテ」

ホッとしたら、さっきの一撃が、今頃効いてきた。腹筋の鍛え方足らんわ、まだまだ。

「大丈夫?拓斗にやられた?」

「やっ、アイツは何も」
表情を思い出して、ちょっと吹いた。

「何?変なの」

「多分、もう来ないと思うよ」

「よかった!」

あぁ、守れてよかった。この春から夏にかけて、オレの人生に影響を与えた二人のうちの、一人。

平野と打ち解けてから、女子に対する苦手意識が、かなり消えた。自分がどう思われてるかばっかり気になってたけど、格好が少しこなれてきたせいか、落ち着いて女子と会話して、冗談なんかも言い合えるようになった。

和泉多摩川に着いて、出足が遅れたためか、人の多さに驚いた。


「はぐれるぞ」


「うん」


階段を降りながら、ごく自然に手を繋いだ。

小さくて、少し力を込めたら壊れそうな柔らかい手。触れた小指の、骨の細さにあらためて驚く。
やっぱ女子って、違う生き物なんだよな。