「送るよ」

 

「うん」

 

駅から結構遠かったが、小さい頃からの記憶をたどり、無事に平野を家まで送り届けることが出来た。

 

玄関先で別れを告げ、歩き出すと、

「サイトー!」


振り返ると、まだ家に入らずに、手を振ってそこに居た。

「早く中入れ。鍵かけろよ」

「わかった」

平野んちは確かお母さんと二人暮らし。もう大丈夫と思うけど、暫く私的パトロール必要かなぁ。

 

家に帰り菓子を渡すと、母のテンションが一気に上がった。

「佑、髪、いいじゃない☆!BTSみたい。お菓子は、どうしたの?」

「女子にもらった」
嘘は、ついてないよな。

 

「一個、お願いがある」

 

「何?」

 

「オレ、ズボン丈ちょっとダサいって。裾、少しおろせる?」

 

「アラー、お安い御用よ。ミシンで、チャチャッと。誰かに言われた?」

 

「ああ。オシャレ番長に」

 

「フフフ。そういうの気にしないタイプだと思ってたのに」

 

「気づいてたら教えてやー、マジで」

 

「フーフーフー」

 

はしゃぐ母を尻目に、部屋に戻った。



----------------乙女----------------

風呂に入ろうとして、鏡を見てギョッとした。
誰やこのチャラいの。
あ"ーっもう!

アタマをかきむしっていつもの無難なスタイリングに戻そうとしてふと、考えた。

シナユーが見たらなんて言うかな。変わり映えしないいつものスタイルをやめて、違った自分をアイツに見せたい。

なんだ?オレ、アイツに見せたいばっかりに明日もこのアタマ&コンタクト?

見せたところで何がどう変わるってわけでもないのに、オレって健気…メンタル、乙女。

一回でいいや、明日だけ!シナユーにこのチャラいオレを見せよう。うまく自分で髪を再現出来るか、不安だが。

翌朝、新百合ヶ丘駅の改札で、シナユー発見。会いたいな、と思うとかなりの確率で会えたり、同じクラスになれたり、何らかの縁はあるのかもな…と、前を歩く天パを見ながら思った。

後ろ姿が、もう、いとおしい。オレに全く気づいてないその姿を目に焼き付けつつ、1歩1歩近づく。