オレの後の平野目掛けて延びてきた腕をとっさに掴んで捻り、足をかけて転倒させた。

「そういうとこ!」
平野が叫んだ。

「怒ると怖いとこ、自分の意見ばっかり通すとこ、話を聞いてくれないところ!」

「ゴチャゴチャうるせー女だな!」
細身のイケメンは、土埃を払って憤然と立ち上がると、小さな包みを地面に叩きつけて、後ろも見ずに去っていった。

ふと、立ち止まり、振り返って、
「真侑、後悔するぞ!」
と、捨て台詞を残し、駅の方面へ走っていった。

包みを拾うと、ラッピングされたマシュマロだった。

「あっ、ウチの好きな…」

なんとか仲直りしたかったんだろうな。精一杯カッコつけて去ったイケメンが、ちょっと気の毒になってきた。

「サイトー、ありがと。拓斗、ビビリだから、多分もうこないよ」

「よかった、怪我させなくて。オレも怪我したくねーし」

「なんか、サイトー、ケンカ慣れしてるね、意外」

「うち、野郎ばっかだから。上の兄貴は東海大ボクシング部」

「ひぇー」

じゃれて取っ組み合いしてたのがこんなとこで役に立つとは。でも実戦は初めてだったから、上手くかわせてラッキーだった。

「マシュマロ」

「えっ?」

「いらねーの?拓斗とやらがせっかく…中身は無事だぞ」

「いらなぁい。サイトーにあげる。あっ、ちゃんと別でお礼はするからね」

食い物に罪はない。
貰って帰って、甘いもの好きの母に渡そう。

「バッグ」

「ん?」

「ウチの手作りってなんでわかったの?」

「そりゃあ、お前んちのネコそっくりの、あのビミョーなアップリケ」

「もう(笑)!」

ジャンプしてアタマをはたかれた。

「あの、いつも持ってたやつだろ?」

「うん」

「残念だったけど、また作ればいいじゃん。今度はもっとバージョン・アップして」

「そうだね」

平野が、微笑んだ。