「眉、整ったから前髪上げてもいいかも」
今度はワックスを取り出し、更にオレの髪を後方にかきあげる。
「あと、ネクタイ!そんなにカッチリ結ばないで、も少しラフに」
リーマンのオッサンが飲み会の前に緩める感じに、少し崩してくれた。そう!こういうのが出来ないんだオレ。
シャツの袖を捲るのも、等間隔でキッチリ折り曲げちまうから、シナユーみたいにラフに、適度な、こなれ感?を出すことが出来ない。オシャレなヤツとそうでないヤツの違いって、何を着るかよりも実はそういうとこなのかもしれないな。
「できたー!ちょっと予想よりもかなりイイ感じ!記念に撮ろ?」
はぁ?言われるがままに並んで、撮ったフォトを見て驚いた。
「マジか」
トッピング的な文字入れこそ拒否ったが、笑顔の平野と並んで写るDKは、オレ的な要素は残ってはいるが、まるで別人のチャラさ加減だった。やっぱ髪?風に吹かれて乾く途中みたいなこの毛先の遊んだ感じ。
「サイトー、けっこう化けるね。普段のゴッツイ眼鏡してないと、みんなわかんないかも」
ニコニコと嬉しそうな平野。これならギリ、カップルに見えるかもな。
「サンキュ、でもこれ、自分じゃ再現出来ねーや」
「だよね。ちょっと今日、帰りにウチの家の近くまで送ってくれる?反対方向で悪いんだけど」
「全然いいけど。そもそもなんで、カレシのふりを?」
「好きな人ができた、と言って別れたんだけど、そいつとカップルにならない限り、おれは諦めない!って言われて」
「好きな人って…」
「そう、シーナくん。ウチ的にはイケると思ったんだけど、勘違いだった」
罪だな、人たらし。
「て、ことは、オレは軽音部的な雰囲気をまとわなきゃイカン?」
「何部かは言ってない。シーナくんのことがなくても、怒ると怖いから別れたかったの」