----------------カレシ----------------

翌朝、新百合ヶ丘の改札を出たところで、平野に会った。

「珍しいな。待ち伏せもうやめたんじゃねーの?」

「ウン。サイトーのこと待ってた。ちょっとお願いがあって」

「なんだよ、LINEすりゃいいのに」

「LINEだと言いづらくて」

「歩きながら聞くよ」

シナユーは慣れっこだろうけど、女子と二人で登校なんて、高校入ってから初だな。いつも機関銃のように喋るのに、なかなか切り出さない。

「何なん」

「ちょっと…言いづらい」

「言ってみ?」

「カレシになってくれない?」

「は?」

失恋のショックで、ついにアタマをやられたか。

「てか、カレシのふりしてほしいんだけど」

ますますわからん。

「何でだよ」

「元カレが…しつっこくって、昨日も追い掛けられた」

「ヤバい奴じゃん、そいつ」

「バッグが…」

「?」

「大事にしてた猫のバッグ、獲られて水溜まりに、バシャーンて落とされて。ダメになっちゃったの」

「ひでぇな、やることが小学生、いや、小学生でもそんなんしねーぞ」

思い出したのか、今にも溢れそうな涙目。なんだかよくコイツの泣くところに出くわすな。

「泣くなよ。オレがそいつにつきまとうなって言ってやるから」

ハンカチを渡す。

「…意外」

「何が」

「ハンカチ臭くない。ってか、いい香り」

「いちいち失礼だな」

母が柔軟剤入れすぎなのは気になるけど、やっぱ清潔感、大事。

「ホントに頼める?」

「ああ」

「ありがとう!」

顔を上げて満面の笑み。不覚にもかわいいと思ってしまった。

「じゃあ、あとで作戦会議ね!」

校門で、別れた。

…作戦??