ドラムの後方から照らされる簡易ライトに、シナユーのふわっとした髪が映り、ゴールドの後光が射した。

マジ、天使。なんか、神々しい感じがして、ポカンと眺めるしかなかった。

こんなに近くで、不特定多数の視線が一点に集中する空間、オレなら耐えられない。ましてやそこで歌う?

中学のときは体育館のステージの上だったが、今回は押し掛ければ直ぐに触れそうな距離に、シナユーがいる。


ヤツは、視聴覚室の中を満遍なく、ぐるりと見渡して「あっ、そこ危ねぇ!あんまり押さないで。大丈夫?」と、集まった皆を気遣い、声を掛けていた。

「そんじゃいくよー?」

最後にメンバーの二人と目で合図を交わし、曲名をコールした。

「I want you, to want me!」

そうだ、コイツは、人に自分がどう見えてるかなんて、全然興味ないんだった。緊張するわけねーか。

ドラムで始まるイントロ、ギター、ベースと順に入って、シナユーのCoolZ ZJB-10Rがリズムを刻んだ。親父さんのお下がりのジャズベースだ。
なんで家にベースが?よく知らんけど、そういう家なんだろう。

今日のシナユーは随分と甘い声。古い映画の「ダーティハリー」のクリント・イーストウッドに憧れて、強面の一匹狼がヤツの理想だから、女子にかわいいと言われると、いつも複雑な顔をしていた。

でも今日は「カワイイ」を解禁して、目一杯使ってる。本領発揮だな。目から光線出てる。
あーあ、またファンが増えちまうじゃないか。