‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐接近‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「佑、お願いがある!」

思い詰めた顔で、シナユーが寄ってきた、ある日の放課後。

「何?」

「数学教えて。二次関数」

「いいよ、いつ?」

「今日。来週から試験だろ、前に教えてもらった時、先生よりわかりやすかったから」

「どこで?今から練習だろ」

「夜、お前んち、行っていい?」

心臓が、口から出るかと思った。

最寄駅が同じで、以前一度遊びに来たことがあったが、あれはあのハロウィンよりかなり前だ。

今、シナユーと密室で二人とか、無理ー!
あの夢みたく、何かやらかすオレ、絶対。

「…」

絶句してるオレを覗きこむように、シナユーの顔が近づいてきた。

「ごめ、都合悪かったらいいや…」

表情が悲しげに曇ったのを見た途端、
「いいよ、来いよ」と言ってしまった、オレのバカ!

「マジ?サンキュ!寝袋持ってくから!」

パァッと明るくなったシナユーの、去っていく笑顔に手を振りながら、オレは途方に暮れていた。惚れた弱味か…。寝袋?泊り?

金曜か、今日は。


シナユーが来ることで頭が一杯で、適当な理由をつけて、部活を無理やり途中で抜けた。

オレの部屋は普段からモノが少なく片付いているから、特に何をするということもないけれど、とにかく心の準備が、必要だった。