脱北者
60年代に帰還事業でこの世の楽園と騙され北朝鮮に渡った日本人(妻)1831人。
今その悲痛な叫び声が聞こえてくる。

「お願いです、母は日本人で怪我をしミャンマーの山中にいます。日本の親戚に電話して五千ドルをブローカーに送金するよう説得してください。早くミャンマーから出ないと母は北朝鮮に強制送還され処刑されます」私たちは直ぐ日本の親戚の家に電話した。
「今まで何度も金の無心をし自分から北に行ったのだから、これ以上助けることはできない。北朝鮮に行ったというだけで私たち親戚は迷惑をしている。これ以上連絡をしてこないでほしい」と中村美智子さんの親戚は言った。

5月1日北タイの取材協力者から「日本人妻の娘、孫がタイ警察に身柄を保護されている」と連絡が入った。
2日私たちは早朝の便で北タイに向かいそのままメコン川沿いの警察署に行き美智子さんの娘キヒさん(四十五歳)と孫娘ヒヤンモクさん(十九歳)は警察官に連れられ二人は私の顔を見ると「お世話をかけます」と日本語で言った。
2005年11月、母親(日本人妻中村美智子さん85歳)と娘、孫は北朝鮮のブローカーに一人五千ドル払いYANGGANG-DOの国境の川を越え中国に脱北した。そして車で北京に行きそこから列車で雲南省の昆明で中国のブローカーに会い「ここからタイまでは一人千五百ドル払え」と言われお金がないのでヒヤンモクが六ヶ月間ホテルで売春をし三人分の四千五百ドルを払いトラックの荷台に隠れ中国とミャンマー国境まできた。
【ヒヤンモクはコンドームをつけない客も取り続けたため今妊娠三ヶ月だ】
国境で他の脱北者十人(七歳の少女スンシュク・五歳の少年・二十代の女性五人・四十代の女性三人)と合流し中国国境を越えミャンマーの三つの山を二日かけて越えた。メコン川に近づいたころ七歳の少女が野犬にわき腹をかまれ傷を負ったがそのまま二隻の小型のボートに分乗し北タイに近づいたとき母親の乗っていたボートがタイ軍の兵隊に捕まり母は銃底で顔を殴られタイ国外に追い返され私と娘、他の五人はなんとかタイ側に上陸したが川沿いのレストラン従業員に警察へ通報され出入国管理法違反で逮捕された。
日本人の娘と孫、七人は裁判で通常五ヶ月のところ懲役十日の温情判決が下り今刑務所で服役している、5歳の少年・七歳の少女も収監されていた。二度面会に行ったが皆元気で出所を待っているそうです。ただ逮捕された時、警察官に現金を全部取られたらしく洗面用具も買えずにいる。
【七歳の少女スンシュクの母親は二年前脱北しタイ経由でソウルに入り脱北者定着支援金二千八百万ウォン(約二百八十万円)の中から五千ドルを中国のブローカーに送金し娘を脱北させようとした。私たちは一時取材を中止し協力者と一緒に少女を病院に運び治療し拘置所に戻した。】
警察署で調書を取られている時、朝鮮語の通訳にブローカーへ電話してもらったところ「母親は今、前歯五本を折られ顔に大きな傷を負ったまま病院にも行けずミャンマーの山で野宿してる。もう一度タイ側に連れ出す場合また五千ドルを中国人ブローカーに送金してくれ」と言われた。
【最近アジア各国に北朝鮮政府から脱北者を捕まえたとき北朝鮮に送り返すよう強く要請されている。そのため脱北者たちは警備のゆるいミャンマーの千メーター級の山を三つ越えてメコン河にでて小船でタイに来るケースが増えている。去年タイに来た脱北者は百名弱。今年は五月現在で二百名近くになっている。でも、この山は険しく越えるには獣道を歩いて二日かかり野犬も多く体力のない人は力尽きて死ぬこともあり去年私の知人が中国から脱北者と一緒に山を越える途中で沢山の白骨死体を目撃している。その中には子供三人を含めた五体の白骨死体があり横の木には朝鮮語で「私たち家族は自由を求めて五年前北朝鮮を脱出してきたが食料もなく力尽きた。これ以上歩くことはできない。この地で死んで本当の自由になります」と出身地・名前を木に書いてあったそうです。】