ダー
チェンライ県ミャンマー国境の村に住むアカ族の少女ダー(16才)。
彼女はエイズの末期症状で一人死を待っている。
ダーの家族は父母、3人の妹の6人暮らし、父親は薬物使用で3度刑務所に入っている。
タイ国籍がないダーは学校にもいけない、そのため正規にチェンライ県から出ることはできない。
彼女が14才の時、村にタイ人の人買いブローカーが来た。
「バンコク郊外のレストランで仕事をすれば毎月1万バーツ以上になるし少数民族の子も沢山いるよ」。
そしてブローカーは父親に前金として二万バーツを渡し村の娘3人と一緒に車でバンコクへ行った。
ダーは始めて見るバンコクに驚いた、同じ歳の子たちが綺麗な服を着て映画館に行ったり買い物をしている。
「よし私も沢山お金を稼せごう、そして綺麗な洋服着て村に帰ったらみんな驚くだろうなー、家族にも沢山お土産を買っていこう」。
だが、次の日連れて行かれた所はレストラン兼売春宿だった。
店の表は食堂になっていたが裏の部屋にアカ族、ラフー族、ミャンマー人の13才から18才までの少女16人が住み込みで働いていた。
客はここで女の子を選び小さな部屋で買春をする、店からコンドームを渡されたがお客が嫌がるのであまり使わなかった。
初めてのお客は中国系タイ人、ブローカーから「父親に2万バーツ渡したんだから」と言われ黙って耐えた。
店から「3人のお客までは処女を装うように」と言われその通りにした。
それからは早く借金を返したかった彼女は自分から客に媚を売り毎日朝から晩まで客を10人以上取った。
ダーの売春の値段は1回300バーツ、ブローカーと店で半分ずつ彼女の収入は客からのチップだけだったが毎月家族に3000バーツ仕送りをした。
半年後、店に警察の手入れが入りブローカーと一緒にチェンマイの売春宿に行くがお客が少ないため3ヶ月でパヤオに移り(この県で2軒の店で仕事をする)その後チェンライの店で1年仕事をした。
ここでは日本人のお客も多かった、ママさんから「日本人は金持ちだコンドーム使わないと沢山チップをくれるよ、」と言われその通りにした。
チェンライの店で仕事をして1年後、また警察の手入れがありNGOに保護され寮で生活しながらエイズ検査を受ける、検査結果は陽性、信じられなくて3回検査を受けたが結果は同じだった。
寮には彼女と同じ保護された少女が20人近く住んでいたが10日後、家族に会いたかったので彼女は村に帰った。
でも両親はエイズに感染した彼女を家には入れてくれない、しかたなくNGOが建ててくれた小さな小屋に住む。
914タイ国営ラジオ放送局、この局は毎朝少数民族10の言葉で生活情報を放送し電波はミャンマー、中国まで届く強力なもの。
例えばDJが家族に宛てて「ミャンマー側ラフー族パーミィー村のエーちゃんがNGOに保護されています、何月何日何時にメーサイの国境に来て下さい。」と。
通信手段のない少数民族の村にはこの方法がもっとも有効である。
この方法でアカ族のDJは5年間で約400人の少女を親元に帰したという。
DJは少数民族少女売春婦があまりにも多いためダーをラジオに出演させた、「お父さんお母さん娘達を売春婦にしないで下さい、お金は稼げるが私のようにエイズに感染し死を待つばかりです」と語らせた。
局では名前を出さなかったが声でダーと分かった村人は「村の恥を曝してしまった」と、彼女を村八分にしてしまった。
この村の男達はアヘンを吸い昼間から酒を飲み仕事はしない、現金収入は娘達からの仕送りだけ、だからダーがラジオで話した事を許せなかったのだ。
ダーは私に「私は仏様を恨んでます、皆と同じように生まれて来て何故私が死ななければならないの、家族を助けようとしただけなのに」、と言っていた。