「ほら、起きよう」
「・・・う、ん、・・・んー・・・」
もう何度目かも分からないこのやり取り。
『冬の朝のヒョンは永遠の毛布みたいだから包まれてる俺は永遠に起きられないのわかる?』
寝坊して怒られるとラッパーの滑舌で話の流れを手中に収めて俺に責任をなすりつけてくるけれど、あいつに説教してるはずの長兄が「包まれてる」という単語にチラッと反応した顔がツボに入りすぎて笑いの発作を堪えられなかった俺が、結局のところ全部怒られて終わった昨日の夜。
怒られたといってもあの人は信頼してる相手には優しいし、特に俺には甘いからどうってことはないけれど。
ただ俺たちは最近あの人にため息をつかせすぎだなと思った。他に山ほど気苦労があることを俺は知っていた。
せめて今日くらいは余裕を持ってこいつに支度をさせた方がいいだろう。
あんたがいろいろしないでさっさと寝かせてやれば済む話じゃんとかいう普段なら一蹴する意見を尊重して、昨夜は早々とあいつを布団に入れて俺は自分の部屋で寝た。そして朝になって起こしに来たわけだ。
ヒョンひどい俺あと1時間寝られるのに、とぐずるルームメイトをまずベッドから引きずり出して隣の部屋に放り込む。末っ子だから優しくしてあげた。他の奴なら廊下に出して終わりだからな。
そんな隣のベッドの騒ぎにも全く動じず、もう片方のベッドでは相変わらず布団の塊ができている。
朝だよ、とまずは軽く声をかける。
起きないと、と優しく揺すって様子を見る。
この程度じゃ反応なんかないってもちろん分かっている。
ここからが本番だ。
掛けてるというより体に巻き付けてある布団を、俺は無理矢理引き剥がした。
「ちょ、おい!!・・・え、あ、ヒョン!?」
布団を追いかけ飛び起きて、そこに俺を見た途端に目をぱちくりさせている。
「朝起こしに行くって言っただろ。忘れたの?」
何でもない風に言ってみせてるけど、この顔が可愛くてたまらない。
でも言うことは可愛くない。
「俺頼んでない」
その可愛くないことを言う態度が一番可愛いとか思ってる俺も、だいぶ可愛いなと思う。
布団の端っこを引っ張ってまた横になり、その下に体を押し込めようと小さくなる。
「ヒョン布団直して」
「まだ寝る気かおまえ」
「んーもううるさいよ」
イライラと払われる蝿の気分で、俺は結局起こすのを諦めた。
永遠の毛布なんて言うくせに、こいつは俺に包まって寝ることなんか本当はない。
自分が寝やすい体勢で気持ちよく熟睡するのが最優先で、体に馴染んだ抱き枕と自分の匂いのする毛布の方が俺よりはるかに好きなんだ。
剥いでぐちゃぐちゃになった布団を掛け直してやりながら、ほんの少しだけ寂しく思う。
俺は永遠の毛布係なんだろ、どうせ。
「これでいい?」
「うん」
綺麗に掛け直した布団の中で、仰向けになって満足そうに目を閉じた。
「あと1時間したら起こすからな」
「うん」
ポンと軽く頭を叩いておやすみを言う。
またあの人のため息が聞こえてきそうだ。
「ヒョン」
立ち上がりかけると布団の中から手が伸びてきた。
俺のTシャツの裾を掴んでまた座らせる。
「うん?」
「あとさ」
「うん」
「ちゅうもして」
「・・・・・・世話が焼けるね」
布団ごとぎゅっと抱き締めた。
誰にも見せずに永遠にこの毛布の中に閉じ込めておきたい。
「おやすみ」
「ん、好き」
噛み合わない愛しくおかしな挨拶に、口元を緩ませて頬を撫でた。