「クララとお日さま」

 カズオ・イシグロ


📝子供達が学校での集団授業ではなく、各家庭でオンライン授業を受けるようになった未来。子供達の友人役として、太陽光を動力源とするAI搭載の人型ロボット・AFが製造されていた。AFのクララは、店で展示されていたところを病弱な少女ジョジーに気に入られ、購入されて彼女の家で暮らし始める。

子供達は時々「社会性を身につけるため」として、仲間同士で家に招きあってパーティーをすることがあった。しかしジョジーの幼馴染みで隣家に住む少年リックは、いつも招かれざる客という扱いを受けていた。家が貧しくて「向上処置」を受けていなかったからだ。
この世界では、知能や社会性を高める「向上処置」を受けていない子供は大学に進学することもできない。能力さえもお金で買う、格差社会なのである。それにもう一つリックが「向上処置」を受けない理由は、彼がいわゆるヤングケアラー、つまり、精神が不安定な母親を置いて進学のために家を出ることができないからだった。

クララはジョジーやリック、ジョジーの母らと関わりながら、さまざまな人間の行動を学習してゆく。
そんな中、ジョジーの持病が悪化。クララはジョジーの回復を、自らの動力源である「お日さま」に願う。
一方、ジョジーの母はクララに対し、謎めいた言動を繰り返すが、やがてその目的をクララも知ることになる。

⚠️以下ネタバレです↓
📝ジョジーの母がクララを購入した目的は、クララのAI(人工頭脳)にジョジーの行動を徹底的に学ばせ、ジョジーが亡くなった場合のコピーとなってもらうためでした。そのために、ジョジーの外見を模したロボットまで作っていました。
外見は脳の入れ物に過ぎず、脳もまた膨大なデータとアルゴリズムに過ぎない…
娘の死を受け入れたくないという欲求が生む、人間の存在意義を揺るがす禁忌。背筋が凍りつきました。

ですがクララは、ジョジーの身体はジョジーのものであり、誰も代わりになれないと思っています。また、太陽の光こそ生命を司るものだと信じています。もはや信仰と言ってもいいかもしれません。
クララは太陽光を遮る粉塵を放出する「マシン」を壊せば、地上に光が降り注ぎ、ジョジーを救う奇跡が起きるのではないかと考えました。その「マシン」を壊す方法は、クララの頭部に入っている化学薬品溶液を少し抜いて、「マシン」に注ぐことです。クララは自分のAIの認識能力が低下する危険も厭わず、それを実行します。
その後奇跡的にジョジーは回復します。でもそれは偶然です。なぜなら実はその「マシン」というのはただの道路掘削工事機で、どこにでも、いくらでもあるものだったからです。

やがてジョジーが大学生となり、リックは母親から独立し自分の道へと歩み出した頃。もう動かなくなったクララは廃品置き場に横たわり、「お日さま」を見上げていました。それはクララに限らず、型落ちとなったAF達の宿命なのでした。

旧型AFのクララには、嗅覚が搭載されていませんでした。ですからこれは想像ですが、おそらく涙を流すような機能も付いて無かったのでしょう。
この最後の場面、もしクララに人間でいう感情というものがあったとすれば…それはどんな感情と呼べばいいと思いますか?






🗓6/11 読了