今から10年以上前の事だったか。
私はとある漫画のSくんというキャラクターが好きだった。
アニメを観て、映画を観て、パソコンでSくんの情報を調べる日々。
wikiだって舐め回す様に読んだし、画像検索で出てきたSくんの公式画像を父のPCに勝手に保存しまくっていたぐらいには、Sくんに嵌っていたのだ。

さて。そうやってSくんに纏わるものを網羅する勢いでネットの海を泳いでいたある日、とあるページを私は見つけた。
Yahoo検索で出てきたそのページのタイトルはSくんになんら関係のない様な文言だが、下に表示されているディスクリプションにはSくんの名前が書かれている。
ならば見るしかないだろう。
Sくんの情報に飢えていた私は迷わずそのリンクを押した。

そして出現したのはとあるポップアップ。

『Sくん「愛しのレディ、キミの名前は?」』

アッこれダメなやつだ! 
私は迷わずブラウザの×を押してPCの電源を落とした。

だがしかし、当時の私は本当にSくんに飢えていたのだ。
公式のアニメ画像を模写しまくり、録画してあるアニメのSくんの登場回を何度も見返し、漫画も図書館に読みに行って。
行き着くところまで行き着いたのではないかというほど、Sくん関連のものを調べまくった私にとって、先程見つけたサイトは未知の存在。

気が付いた時にはPCの電源を入れて、私は検索履歴からそのサイト逆戻りしていた。理性が全く無え。
そして再度出現した『Sくん「愛しのレディ、キミの名前は?」』というポップアップ。
要は名前を入れなきゃいいんだろう? と得意気になった私は、入力欄に何も入力せずにOKボタンを押して……そこで出会ったのだ。

なんか知らねえ女とイチャイチャしているSくんと。

いやこの女誰やねん。
何よこの女、我が物顔でSくんとキャッキャしやがって。
Sくんのことが知りたかったのに、なんで知らん女とイチャつくSくんの情報が出てくるんだ。

このサイトに辿り着く前に、飽きるほどSくんの情報を調べたから、こんな女が漫画に登場していない事は分かっている。
じゃあなんでSくんはこの女とデートしてんだよ。

訳が分からなかった当時の私は、知らん女の名前をYahoo検索した。
だが当然、なんも情報は出てこない。

訳の分からぬ女の存在に混乱しつつも、私は私の知らないSくんの情報があると信じて、またあのサイトに戻った。
そして表示される『Sくん「愛しのレディ、キミの名前は?」』のポップアップ。
若干ヤケになっていた私は、今度は入力欄を空欄にするのではなく登場飼っていた犬の名前を入れた。
人間の名前じゃなけりゃ個人情報もへったくれも無いだろう、なんて妙に小賢しく考えたのだ。
悪い手には引っかからないぞ、と得意げになった私はOKボタンを押した。

その結果、知らん女は消え去って、Sくんに愛の言葉を囁かれる愛犬が爆誕した。

おい、なんでSくんがうちの犬のほっぺにキスしてるんだ。
知らない女がまた出てくるとばかり思っていたのに、知ってる犬が出てきた私は呆気に取られながらも、サイトに書かれている小説を読んでいき、最後まで読み切った後、漸くコレが「そういう」ものだと気付いた。
そうやって楽しむものなのか、と。

急いでブラウザバックし、今度は迷う事なく「愛しのレディ、キミの名前は?」と聞いてくるSくんに自分の名前を教えた私は、ドキドキしながらOKボタンを押した。

そして表示されたのはSくんとデートをしている「私」。

萌えすぎて思わず心臓を抑えた。