ワケあって(どんなワケだったのかは知らないのだが、ひょっとすると借金取りから逃げて、ほとぼりを冷ますためだったんじゃないか・・・、という気がしている)、小学1年生の夏休みを母、姉とともに香川県大川郡の旧誉水村(よみずむら 現東かがわ市)で過した。
人の住んでいなかった古い農家を一軒借りて過ごしたのだが、それまでずっと町暮らしだったから、夜になると真っ暗になるのが、恐怖だった。
それに輪をかけたのが夜な夜な、階下の部屋で川の字になって寝ようとすると聞こえてくる、「シュルシュル~」という、不気味な物音。
村人の話だと、それは大蛇が階段を上り下りして、2階と行き来する際に腹の鱗がこすれる音、だということだった。
「え~ッ、大蛇!?」
まさに、凍りつく思いで、トイレに行くのも怖くて仕方なかった。
村人たちは日常会話で大蛇のことをよく話していたし、近くの川では川遊びをするこどもたちの安全祈願のため、大蛇に生贄を奉げる、とかいう話を耳にした憶えがある。
そんな心細い一家の頼りになってくれたのが、ヒヅメ・クマイチという名前どおりに体格のよい、若い駐在さんだった。よく「大蛇はのう、家の守り神やけん、あんたたちを守ってくれとるんや」と力づけてくれ、それに応えてオレも、「ボクも大きくなったら、ヒヅメさんみたいなお巡りさんになるんだ」といったりしていた。
それに、村のこどもたちともすっかり仲よくなって、時々小川を堰止めして魚を獲ったり、川遊びに興じたり、田んぼででイナゴを捕って、煎って食べたりと野性味豊かな生活にすっかり馴染んでいった。夜になると相変わらず「シュルシュル~」と移動する、大蛇のことも気にならなくなっていた。
だから、はじめのうちはあれほど「早く町に帰りたい」といっていたのに、夏休みも終わりが近づいてくると、「帰りたくない」といい出す始末。
でも、とうとう村を去る日が来てしまった。
数少ない持参の家財道具をまとめて、1カ月余お世話になった家をさあ出よう、という時になって、こども部屋に使っていた2階に、忘れ物をしてきたことに気づいた。慌てて、オレはトントンと2階に駆け上がって、襖戸を開けた。
その途端、オレの目に飛び込んできたのは・・・
大きな蛇が5、6匹、乾燥させるために壁に立てかけておいたタタミを背に、大きくトグロを巻いて鎌首をもたげていたのだ。蛇たちはそろって大口を開け、舌をチョロチョロさせていたのだ。
ビックリ仰天! はしたものの、不思議にも怖い、という気はしなかった。
ヒヅメ巡査のいうように、その頃は大蛇がこの家の守護神、と思うようになっていたのかもしれない。
そして、その時初めて見る大蛇たちが、お別れの挨拶でもしているような気がしてきて、手を振って「ありがとう」とつぶやいていた。
結局、忘れ物をした、というのは思い違いで、何だか蛇たちがオレを呼んだのかもしれない、と思った。
こうして、大蛇と過ごした夏休みは終わったのだ。
人の住んでいなかった古い農家を一軒借りて過ごしたのだが、それまでずっと町暮らしだったから、夜になると真っ暗になるのが、恐怖だった。
それに輪をかけたのが夜な夜な、階下の部屋で川の字になって寝ようとすると聞こえてくる、「シュルシュル~」という、不気味な物音。
村人の話だと、それは大蛇が階段を上り下りして、2階と行き来する際に腹の鱗がこすれる音、だということだった。
「え~ッ、大蛇!?」
まさに、凍りつく思いで、トイレに行くのも怖くて仕方なかった。
村人たちは日常会話で大蛇のことをよく話していたし、近くの川では川遊びをするこどもたちの安全祈願のため、大蛇に生贄を奉げる、とかいう話を耳にした憶えがある。
そんな心細い一家の頼りになってくれたのが、ヒヅメ・クマイチという名前どおりに体格のよい、若い駐在さんだった。よく「大蛇はのう、家の守り神やけん、あんたたちを守ってくれとるんや」と力づけてくれ、それに応えてオレも、「ボクも大きくなったら、ヒヅメさんみたいなお巡りさんになるんだ」といったりしていた。
それに、村のこどもたちともすっかり仲よくなって、時々小川を堰止めして魚を獲ったり、川遊びに興じたり、田んぼででイナゴを捕って、煎って食べたりと野性味豊かな生活にすっかり馴染んでいった。夜になると相変わらず「シュルシュル~」と移動する、大蛇のことも気にならなくなっていた。
だから、はじめのうちはあれほど「早く町に帰りたい」といっていたのに、夏休みも終わりが近づいてくると、「帰りたくない」といい出す始末。
でも、とうとう村を去る日が来てしまった。
数少ない持参の家財道具をまとめて、1カ月余お世話になった家をさあ出よう、という時になって、こども部屋に使っていた2階に、忘れ物をしてきたことに気づいた。慌てて、オレはトントンと2階に駆け上がって、襖戸を開けた。
その途端、オレの目に飛び込んできたのは・・・
大きな蛇が5、6匹、乾燥させるために壁に立てかけておいたタタミを背に、大きくトグロを巻いて鎌首をもたげていたのだ。蛇たちはそろって大口を開け、舌をチョロチョロさせていたのだ。
ビックリ仰天! はしたものの、不思議にも怖い、という気はしなかった。
ヒヅメ巡査のいうように、その頃は大蛇がこの家の守護神、と思うようになっていたのかもしれない。
そして、その時初めて見る大蛇たちが、お別れの挨拶でもしているような気がしてきて、手を振って「ありがとう」とつぶやいていた。
結局、忘れ物をした、というのは思い違いで、何だか蛇たちがオレを呼んだのかもしれない、と思った。
こうして、大蛇と過ごした夏休みは終わったのだ。