「完敗だ。それ以外に形容の方法がないほどの完敗だった。
もっとやれると思っていたが、相手の力量が上だったということ。至ってシンプルなことだ」
試合後にファーガソンも認めたとおり、両者の実力差は歴然だった。
ホームとも呼べる聖地ウェンブリーでの大一番で、
マンチェスター・ユナイテッドはバルセロナに完敗を喫した。
2年前と同カードとなったチャンピオンズリーグ決勝は、
バルサがユナイテッドを3-1で破り、2年ぶりに欧州王者のタイトルを奪還。
「63%」というボール支配率におけるバルサの優位性は戦前の予想どおりだったものの、
バルサの「12」に対してユナイテッドが「1」という枠内シュート数が示すとおり、
予想以上にバルサは強すぎた。
クライフ時代のドリームチーム以上、
クラブ史上最強ともうたわれる今のバルサを破るヒントは、
モウリーニョが示している。最終ラインと中盤の選手がスペースを埋め、
積極的なプレッシャーをかけ続け、ボールを奪ったら素早く攻撃へと展開。
堅守からのカウンターという“至ってシンプルなプラン”だ。しかし、
このプランを全メンバーの共通理解の下で徹底し続けることは案外に難しい。
ウェンブリーでのユナイテッドも、
試合開始から10分が経過するころまでは、このプランを徹底できていた。
前線のルーニーまでもが中盤のプレスに加わり、メッシやイニエスタに自由を与えない。
しかし、その流れも長くは続かなかった。次第に生まれ始めた中盤のスペースと、
そのスペースを効果的に利用するバルサの選手たち。
そして27分、バルサが先制点を奪う。
シャビのスルーパスに抜け出したペドロが右足を振り抜き、
この試合が現役ラストマッチのファンデル・サールが守るユナイテッドのゴールをこじ開けた。
その後、34分にルーニーが同点弾をマークするが、前述のデータどおり、
終わってみればユナイテッドの枠内シュートはこの1本のみ。
後半、2ゴールを加えたバルセロナが4度目の欧州王座に登り詰めた。
身も蓋もない話だが、今のバルサを破るには、
リオネル・メッシを奪うほかに術はないのかもしれない。
54分、中盤でボールを受けたメッシがエヴラのマークを受ける前に中央へと切れ込み、
ゴール前約20メートルの距離から鮮やかな
ミドルシュートをねじ込んだ場面に象徴されるように、これまでイングランドの地で
ゴールを決めたことがないのがうそのように、その存在感はバルサの中でも別格だった。
ファンデル・サールの意地の攻守がなければ、
この小柄な3大会連続得点王が
チャンピオンズリーグの大会得点記録を塗り替えていてもおかしくなかったはずだ。
「メッシは私が今まで見てきた中でのベストプレーヤーだ。
もしかしたら、サッカー史上最高のプレーヤーかもしれない。
彼は違いを作れる、唯一無二の存在だ。私は彼がうんざりしないことをただ願うのみだ。
メッシがうまくプレーできないときは、彼の環境に何か問題があるからに違いない。
彼がこれからも気持ち良くプレーできるように願うよ」
今のバルセロナは強い。しかし、
それはチームとしての戦術とメッシという別格の存在が
バランス良くマッチして生まれる強さでもあると思う。
バルサ勢を多数擁するスペイン代表が、
バルサほどの破壊力を秘めていない点もそれを裏付けるのではないだろうか。
試合後、グアルディオラが語ったように、メッシは「唯一無二の存在」だ。
今のバルセロナを破るには、メッシを奪うしかない。
そんな身も蓋もない回答を導き出したくなるほど、ウェンブリーでのバルセロナは強すぎた。
●メッシによるマラドーナ1986年W杯伝説ゴール再現について「オーバーに騒ぎすぎ」
「メッシはたしかに怪物だと思う。その成長ぶりは限界知らずで、
今以上の境地へいけると信じている。だが、オレの86年のゴールは、
メッシのゴールよりも美しかっただけでなく、あれはワールドカップ準々決勝、
しかもイングランド代表との試合という大舞台だった。
メッシは(スペイン国内の国王杯での)ヘタフェ(国内リーグ中堅チーム)との試合。
メッシのゴールもゴラッソ(スーパーゴール)だったが、そんなに誇張するほどではない」
●メッシへの期待
「(バルサ1軍でのポジション獲得後もケガに苦しむなど)苦難もあったが克服した。
メッシはすばらしい選手だ。もう少しリーダーシップを発揮できるようになれば、
アルゼンチン代表チームの偉大な選手になると思う。
メッシは次回のFIFAワールドカップ南ア大会でアルゼンチン代表は
メッシが率いて戦い抜くことになるんじゃないか」
●メッシの非凡さについて
「メッシはボールを見ずに、前方を見ながら左足でドリブルする。
自分も含め、フツウはみんなちらちらと下を見る。ボールを見るんだ。
メッシはボールを見なくても行ける。そこが卓越しているところだ」
●メッシへのメッセージ
「メッシ、君なら、得点とチームへの献身を通じてアルゼンチン代表の主将になれるだろう。
オレもゴールとチームへの献身をチームメンバーに示して
アルゼンチン代表チームのリーダーシップをとった。
トレーニングひとつにしても、率先して一番最初にグラウンドに出るようにしたんだ」