彼は自分のことを僕と言う。

私の話す事をいつもうんうんと頷きながら聞いて、それから黙って考える。
そうやって彼なりに考えた事を私に教えてくれる。

彼は、たとえ私がどんなに馬鹿らしく聞こえる事を言っても、真剣であるかぎり考えてくれる。
私の頭の中をよく知っている。
ほとんど脳みそを共有しているようなものだから、私自身も言葉にできないような、片隅でぼんやりと漂っている考えをも理解してくれる。

彼は私であり、私は彼なのだ。

ただ、彼は男であり、自分の事を僕と言う。
私の一番の友人であり、会話好きなボーイフレンドだ。
今日スタジオからの帰り道
小泉楽器の前の掲示板に
一篇の詩を書いた紙が
貼られていた

それは作者の孤独の深淵を
つらつらと説明している詩
私の視線は表面だけを舐めた
表面だけを

ブツブツ独り言を言う浪人生
お互いを軽蔑したカップル
賢そうに背筋の伸びた老人
が、通り過ぎる

誰も見やしないこんな詩
世界のどこの文脈にも無い
誰の興味も惹かないって
思った

これが詩だと思う人が居る
でも科学的な言葉もある
いったい何が詩だとか
わからない

こんなものに意味があるか
私は貼り紙を破いて
なるべく汚く丸めて
捨てた

そうして
泣いて
寝た
僕がまだ研修生で教えていた頃
ある女生徒が言った

先生、会話って渦みたいですね

僕にはその言葉の真意がずっとわからない

同じところをぐるぐる回っているようで
気付くと海の深いところにいるんです

夜更かしをすると
いつも思い出す
彼女の言葉