キィルの記憶の奥に
全員が導かれていく。
まるで、映画を観ていて、それに入りこんでいるような感覚。
現代の人がたとえるなら、そんな、体験。
その場に居る、パーティーメンバーと
魔族たち。
全員がその記憶の澱のなかに漂っている。
キィルの若いころの姿が見える。
そして、許嫁である、少女の姿。
二人は婚約し、少女は子供を宿した。
生まれてきたのは、茶色の髪の赤子だ。
ティオは、キィルとクローディア(ザイン)の
間にできた娘だったようだ。
ピートの鈴が鳴る。
リ~~ン
「これから、過去に起こったことをを詳しく観ていきます。」
場面が切り替わった。
フェルメールの都市は美しい。
その一角の町外れ。
若い姿のキィルが何かを待っている。
現れたのは魔族だ。
この場に居る、魔族の長の若いころの姿のようだ。
二人は何か二言三言語ると、キィルから
宝石の入った袋を魔族の長に渡している。
二人はそこで別れた。
「キィルは、魔族となにか交渉をしていたらしい。」
アレルも興味深く記憶を眺めている。
そうだ…
記憶の主であるキィルもだんだん記憶が蘇ってくる。
おれは…
「魔族とエルフの橋渡しをしようとしていた。」
キィルは魔族との交渉のため、フェルメール姫であるクローディアと結婚を早めるため、
婚前交渉を無理やり遂行する。
子どもを宿したクローディアはキィルと正式に結婚し、
だんだんおなかも大きくなっていく。
クローディアは子供を産み落とすと、消えた。
キィルとの子供に王位継承権2位が確定する。
そして…
遺されたキィルはなおも、魔族との交渉をしていたが…
現れた兵士長はフェルメールの国権をキィルに迫った。
応じないキィルに無理やり指輪を嵌める。
「これは、嵌めたものに操られる効果のある指輪。
魔族の常套手段だ。」
キィルは人が変わったようになった。
長い年月をかけ、国民をまるめこんで王位につき、娘のティオは10歳程度に成長した。
すべての富を魔族に与えると…
国に火を放った!
その火と富をすべて失ったことが原因で
フェルメールは事実上崩壊した。
「そろそろ役者が揃いました。」
ピートのその言葉にはっと全員が一か所を見つめた。
「フローラ、いや、ザイン」
キィルが婚姻した、フェルメールの姫、クローディア。
今は男装して、ザインと名乗っている。
「すべてを観て、どう思われましたか?」
しばらく無言だったザインだが、こう口を開いた。
「私は勘違いをしていた。」
後悔が混じった物言いだ。
「キィルが魔族と通じていたことは事実。
だが、途中から操られていたんだな…」
「おそらく、あなたを襲う夜の前あたりから…」
魔族にはその強大な力で
人の心を操る術がある。
その力を利用し、キィルの善意を悪用した。
その後、その操作を確実なものにするため、
魔法のかかった指輪を指に…
キィルが姿を現す。
全員が過去の記憶の淵から
洞窟の中へと戻った。
「すべて思い出せた
こんなことをしでかした自分が情けない。」
「でも、それが魔族を裏切ったことになるのかしら…」
ローラは素朴な疑問を口にした。
そう云われればそうだ。
キィルは過去に結果、フェルメールの財宝を
すべて魔族に渡していた。
なのに魔族から諸悪の根源のように見られたのには
理由があるからだ。
「魔族が一番欲しかったのは、フェルメールの都市だ。」
アレルがすかさず解説する。
「うつくしい美術で構成された、素晴らしい立地。
キィルは操られてはいたが、火を放ったのは
最後の良心だったのかもしれない。」
「むしろ、良心の暴走の末と言えなくもない…」
キィルは観念したように俯いた…
「ソウダ」
魔族の長が標準語で重い口を開いた。
「ワレワレハ、タダ、ウツクシイモノガスキ、ソレヲテニスルマデ
シュダンヲエラバイトコロガアル。ハンセイスベキテンモ…」
「ウチノヘイシチョウガドクダンデ、コッケンマデセマッタノハ
ワタシノイトデハナイ。エフェーク!」
王がそう声をかけると、兵士長は周りの兵士に先導され、
連れて行かれた。
どうやら、その身を拘束されるようだ。
兵士長はおとなしく罪を認め、連行されていった。
魔族の王の話によると(以下は魔族語でアレルが翻訳した。)
兵士長がキィルの裏切りにより、都市が手に入らず、
富も手にできなかったと公表し、私腹を肥やした。
それを知らず、魔族側はキィルを深く恨み、
結果放たれた閃光弾で今回のティオが倒れる事態に発展した。
ティオはまだ、目を覚まさない。
フォースだけ、キィルの過去の映像を気にするより
常にティオを心配していた。そんな感じ。
魔族の王や魔導師たちもおろおろしている。
このまま、場が閉廷すると思えないのだが…
そこに、ザインの隣に急にある人物が姿を現した!
「…ゼロ!?」
魔族たちがなにやら驚いて騒いでいる。
「コウタイシ…イキテイタノカ?」
その様子を察するに、ゼロは魔族の権力者であるらしい。
「俺は、魔族と人のハーフだ。」
ザインも続く。
「私は、エルフと人のハーフだ。」
「俺たちは愛し合っている。」
「人とエルフ、魔族。きっと共存できるはずだ!」
魔族たちはざわざわしていたがそこですかさずアレルが云った。
「今後、仲良くして頂くために今回の交渉の場を設けた。
これを受け取ってほしい。」
「ターレクイーナエフリートホンセ」
共通語のできない魔族のためにアレルが付け足した。
キィルも思い出したように背負ってきたザックをおろした。
中にはまばゆい宝石が詰まってる。
「アレル、スキーナバリーエスキア」
「ホンワカ?」
「ジ・レキーラ」
魔族語で交わされた言葉は周りのものほとんどに伝わらなかったが。
「どうやら、もう必要ないと云ってくれたみたいですね。」
ローラは語学の勉強中だ。少し、魔族語もわかるのだろう。
莫大な量の宝石は、もう要らないと。
魔族もそう云ってくれているのだ。
安堵の空気が流れる中、
倒れたティオの前にピートが居た。
リィン
ティオの精気のない顔に赤みが差した。
「う…ん…」
ティオの身をフォースが起こす。
「良…かった」
フォース目には涙が溜まっている。
耐え切れず、あふれ出す。
「心配かけて、ごめんね。」
ティオはすっかり生き返ったようになり、
泣くフォースの頭部をゆるゆると撫でるティオ。
「よかった…本当に」
「エスタラードラセル、アレル?」
「エクサティア」
交渉は無事終わった。
「ピートさんは結局過去のどの部分を変えたの?」
ローラはキィルの過去の部分的悪しき面を知ってしまっても
そのまま許す気になったらしい。
心が広くてうらやましいことだ。
「いろいろ。」
「え?いろいろ?」
姿くらましのマントの交渉、ティオの絶命、そして
キィルがクローディアにしたこと。その一部をきれいに上書きして
うまくまとめてくれたのがピートだ。
今回の隠れた立役者である。
「さて、大所帯になったけど、みんなでルアーガに帰るか。」
「あ、でも…」
飛竜は帰り道のため定着させていたがアレルのぶん、余計に1頭
飛竜を寄越してくれたルアーガ王、セトナであったが
合流したゼロ、ザイン両人も一緒にルアーガに向かう体裁であるからして
結局飛竜が一人分足りない計算になる。
フライドラゴンというのは、通常100kg以上の負荷がかかると
飛ぶことができないからだ。
だいたい、男女の体重を組み合わせると100キロ単位に近しい数字なので
今までそういう組み合わせを取ってきたが。
どう考えても一人分、足りないのだ。
「どうする?アレル…」
ゼイラが心配そうにアレルを見たが、
「こんな時のためのコレ、だろ?」
「ああ。」
アレルが中空から取り出した青紫色の石。
それを見てゼイラも納得した。
そうだ、ガリュウを呼び出せばいいのだ。
ローラ キィル
フォース ティオ
サザン
そして、
ザイン ゼロ
ガリュウには
やはり、ゼイラとアレル。
「えっとぉ。」
そこにあった銀色の水溜りがなんだろうと
ゼイラが不思議に思っていたが
急に人の形に変わった!
ノッヂだ。
「実は心配だったから後発の予備の飛竜にこっそり乗って
ここで待ってたっていうわけ。」
ノッヂがサザンにウィンクする。
「んもう。」
そう云いつつもなんだか嬉しそうなサザン。
サザンの乗る飛竜にノッヂも加わる。
全員そろったところで、ルアーガに引き上げることにする。
飛竜は帰りも隊列を組んで飛び立つ。
そこに、ガリュウも加わる。
「そういえば…」
ガリュウの背でゼイラが思いついたような言葉を口にした。
「いつのまにか俺たち、全員カップル成立してるな」
「あ、確かに。」
アレルも今まで気づかたかったが、
飛竜に乗っている二人の組み合わせが
全部カップルであるという事実。
「最初出会ったころは男同士だと思い込んでいた
俺たちも…な。」
それを聞くとゼイラもなんだかこそばゆい思いがした。
「ははは。へっへ。」
しばらく照れ笑いした二人だったが
ゼイラが思い出したように云った。
「そうだ、アレル。」
「ん?」
「完成したよ、ニット。」
「おお、帰ったら着よう!」
ゼイラがここ2か月ほど頑張って編んでいた
アラン編みのニットが完成した。
お愉しみはこれからだ。
いろんな意味において…
精神的にも、肉体的にも。
アレルは少し、艶のある想像に身を任せた。
ルアーガが目前に迫る中、
それぞれのカップルが
それぞれにイチャついていた。
今まで夜の暗闇だった。
朝日が少し見え始め、空が
明るく染まった。
そんな中をそれぞれの飛竜は
はばたいていた。
まるで平和にむかっているように…
明け行く空はこのアスタシアの未来を
示しているようだ。
アレルはそう、思い目を細めた。
隣にはゼイラが居る。その喜びに神に感謝した。
第38話 ⑤ 終わり 第39話に続く…
***
とりあえず一番の長丁場が終わり、
私自身もほっとしています。
あと2話となりましたが
残りの〆をうまくできればと思ってます。
もう少し第1章にお付き合いください。
2章がまだぼんやりとしか決まってないのですがw
早くプロット立てないと~
やはり、年を越してしまいましたね…
良いお年を!
来年も更新がんばります。