「で、唯一身動きの取れる俺を連れて行こうってのか。」
フォースはそう云った。
「ああ、頼む。」
とアレル。
昨日の話だが、獣人族の長が王に謁見し、
移住の申し出をした。
外交官たちは住まいの確保に追われたが
漸く見つけ出して今便利な場所への移送魔法の詠唱真っ最中だろう。
そんななか、アレルはフォースを連れ
獣人族の元本拠地に向かっていた。
どうせならフォースより腕が立つ
ノッヂやサーベルに同行してほしかったのだが
なにぶん急な話で彼らには職務があり、
結果比較的自由の利くフォースを同伴させることにした。
最近、ノッヂにしごかれてフォースはかなり腕の立つ
シーフへと変貌しつつある。
お伴としては不足ないほどに。
「しかし、ゼイラもずいぶん文句を云ったんじゃないか?」
フォースはゼイラから、「やっとアレルの話が聞ける!」
と吹聴されていたのだが、昨日台無しになったのを既に知っていた。
「ゼイラのことだから、「俺と仕事どっちが大事なんだ!?」とか言いそうじゃん。」
それを聞いてアレルはにんまりした。
「それが、「お仕事だからしょうがないよね。行ってらっしゃい」って言ってくれた」
アレルが照れながらそう云った。
「おお、意外と良き妻的発言じゃん!」
二人はしばらく笑った。
ところで、獣人族の住処というのは、ルアーガのすぐ南の島だ。
断崖絶壁で不毛の農業には向かない土地だが、宝石がよく採れる。
それを外部に売った金で主にルアーガに食料の調達に以前から彼らは度々来ていた。
「しかし、宝石ねぇ…キィルさんが喜びそうだけど。」
フォースはエルフの彫金師のことを連想した。
妹のティオがとてもかわいい。
ときどき遊びに行ってはからかったりちょっかいを出したりしている。
おれは…たぶんティオのことが好きなんだ。
最近そう気づいた。
そうこう想いを巡らしている間に、飛行船が島に到着した。
今回の旅のために、飛行船を手配してくれたランスに感謝しつつ。
アレルとフォースは島に降り立った。
「おもったより小さい島なんだな。」
フォースの言うとおり、それほど広くない断崖とその中央から地下に階段が降りるという
シンプルな作りの島だ。
そして、草木一本生えていない。
「まぁ、行こうか。」
アレルが先に階段を下りだす。
岩を粗削りした独特の勾配の階段で、
獣人族に適したサイズだからから、
一段一段が異様に大きい。
帰りに上るときは苦心しそうだ。
階段を降り始めてしばらくすると、
岩をくりぬいて作られた住居がところどころに見え始めた。
まだ、生活の名残があり、急な引っ越し要請の
ため、家具や調度品もそのままルアーガに逃げてきた様子が伺えた。
「やっぱり、なにかあったんだろうな…」
部分的に刀傷が残った壁がある。
移民、というよりは難民に近かったのではないか?
フォースもそれを感じ取って声を落とす。
「こりゃ、トラブルっぽいよな。」
部屋をいくつか失敬して観てみたが
貴重品だけを持って着の身着のまま逃げ出した
様子が見て取れた。
階段を下りた先で、今まであまり耳にしていない感じの
がやがやとした声が聞こえてきた。
アレルは一旦、得意の魔法で自分とフォースの姿を消す。
二人は無言で音をたてぬよう、階段を降り始めた。
「魔族だ」
アレルが聞き取れるくらいのとても小さな声でフォースに伝えた。
フォースには会話の内容がわからないが
語学が達者なアレルには内容は筒抜けであろう。
魔族特有のがちゃがちゃしたまるで喧嘩しているように
思える早口でまくし立てている。
「なにかモメてるのか?」
フォースも小声で聞いてみた。
「そうらしい」
「ちょっと行ってくるからついてこいよ」
そう言うとアレルは急に魔法を解き、
魔族の末裔たちの前に姿を現した!
フォースは自分もかと思って身構えたが、姿を現したのはアレルだけだった。
「オストラロ、ミノーフ」
アレルは、どうやら自分も魔族のふりをするつもりらしい。
普段と若干違う姿に自分を変えている。
装備品はほぼ、変わらないが若干耳を尖らして
顔色を青白く変え、服装のロゴマークが魔族っぽい仕様になっている。
フォースは声を立てないよう(少し吹き出しそうになったが)、場の行く末を見守ることにした。
「アグイス、フォンバート」
「レラレラ」
アレルがその魔族たちの間をすり抜けて進んでいくものだから
フォースも音を立てないように気を付けながら続く。
どれくらい階段を下りたことだろう。
住居からだいぶ降りるとそこは坑道に変わった。
竪穴から横穴に変わり、
輸送用の線路、上に鉱石を運ぶためだろう
滑車と金属のバケツ、要らない土を運ぶだろう大きめのトロッコやら
いろいろな鉱山っぽい要素が見え始めた。
フォースの出身地ザイツも鉱山の国であるから
生活費稼ぎに採掘を手伝ったこともあり
かなり見知った光景だ。
こういう横穴は見た目より崩れやすい。
かなり奥に入ったこともあり、少し身震いする。
その奥でガシャガシャと土を掘る音が
こちらまで響くように聞こえてくる。
「なにか掘っているのか?」
「ああ、そうみたいだ。」
アレルはそのまま、土を掘る魔族たちに向かい
呼びかけた。
「ローラウト・ヘサー!」
「ヘイシーヘイシー」
魔族たちはそういうとなぜか身を低くして
お辞儀をした。
それから何かしらの会話をしたが
アレルはなぜか高慢な態度で接し、
なにか説明を受けた後彼らが先ほど掘り当てたものを
受け取って踵を返した。
「何がどうなっているんだ?」
フォースはわけもわからず、そのまま坑道の別の道を
歩いていくアレルに従うほかなかった。
「魔族の貴族に化けてたんだ」
「ああwなるほど。」
アレルがその姿を一旦元の姿に戻した。
「これから統領と交渉する。」
「え?まじか!」
アレルはどうするつもりなのか?
フォースはなにも把握できていないが、事態は
収束にむかっているのか!?
坑道をずんずん進むアレルに
ついていくしかないフォースであった…
第35話 ② 終わり ③に続く…
***
フォースが同伴の今回の旅。
何事もなく終わればいいのですが。
続きはまた、近いうちに♪