「君の顔では泣けない」
君嶋彼方


 

 

高校一年生のある日、

陸とまなみは突如、体が入れ替わった


陸はなんとか元に戻る方法を模索し

いつ元に戻ってもいいようにと準備するが…


一方、陸の体になったまなみは…



かなり冒頭であかされることなのでネタバレしてしまいますが


このふたり、結局元に戻れません


入れ代わった体のまま、

それはふたりだけの秘密としてそれぞれの人生を生きます



入れ替わりの物語はいくつも読んだことがありますが、

これは斬新じゃないですか?



さらに斬新なことに、二人は


べったりと寄り添って生活することはなく

(例えば恋愛や結婚して夫婦になるとか)



年に一度だけ二人で落ち合っては一年間のお互いのことを語り合う関係




私は、これはなにを描いた小説なのかなと考えました



たとえば私が今、誰かと入れ替わってもう戻れないとしたらどうだろう

案外受け入れてそれはそれで生きていくような気もする。



これからの未来がたくさんある高校生の主人公と

人生がだいたい決まってしまったおばさんの自分を重ねるのは無理があるかもしれないが



人生がだいたい決まっているからこそ手放せないものも多いわけで


そう思うと、人生をまるっと取り替えてもいい人間なんてそういないんじゃないだろうか



主人公は高校生の男女なので、

ジェンダーの差や恋愛関係になる可能性も描かれるが



自分以外の、べつの誰かの人生を生きること

他人の人生を、自分ごととして生きること


私はこの物語ではこれに上差し着目して読みました




ふたりは、入れ替わって戻れない人生を受け入れたあとも


100%不幸とも100%幸せとも言い切れずに生きていく

人生の節目には戸惑い心を揺すぶられる



でもその点は、入れ替わらない人もわりと同じですよね



違うことといえば、

二人にはお互い、「自分よりも自分を知る相棒」が居るということ


そればかりは、誰かと入れ替わっていない私には居ないものだ



二人は、人生の節目には「相棒」と語り合い

それを乗り越えてきた



人生はままならない


誰かと急に入れ替わらなくたって

自分の人生すら思い通りにいかないことや理不尽に戸惑うことだらけである



人生に悩み迷うとき、

自分のことをすべて知り、なおかつ「客観的な誰か」がいたとしたら

どんなに心強いだろう



私は今までに何度も

そんな妄想をしてきたような気がする