西日のきつい昼下がりだった。

ヨガの帰り道に猫が倒れていた。

最初は生きているかと思ったけど、

よく見るともう息が切れていて、

口からは吐血、鼻血も固まり、亡くなってから半日程立っているようだった。

交通量の多いこの場所で、ずっとこのままだったのか。。。

なぜ誰も何もしないのだろうか。

すでにハエがどこからかやってきて、猫の口の中に卵を産みつけていく。

このまま放置することは出来なかった。

そういえば、先ほど通りかかった酒屋の店先で、

酒屋を営んでいる夫婦らしき二人が

「箱かなんかに入れる？」

「せなしゃーないやろ」みたいな会話をしていて、

ああ、このこのことかと思い出した。

猫さんの足を触ってみたけど、もう死後硬直で固まっていたので、

少なくとも３時間前には亡くなっていたことが分かった。

チャイを失ってから、猫さんの死が怖くなくなった。

悲しさは変わらないけど、死んだ猫さんも愛おしいという生まれて初めての感覚だ。

咄嗟に触ってしまったけど、亡くなった猫は細菌感染もありえるのでむやみに触らない方が良い…ような気がして、少し離れてこのあとどうするかを考えた。

まず保健所に電話をした。

火葬してもらえるか聞くためだ。

しかしこの日は日曜日で電話はつながらなかった。

次に従姉妹に電話をする。

彼女は私と同じく、愛猫を亡くした直後に道ばたで亡くなっていた猫さんを見つけて葬送した強者だ。

彼女はとりあえず箱に入れて警察に連絡するようにと言ったので、

その場で地元の警察署に電話したら、地域課の警察官が来てくれることとなった。

しかし、家まで段ボールを取りに行くには最低１０分の時間が必要だ。

長い間放置されたそのこをその場に放置していくことが出来なくて、

結局警察が来るまでの間、うずくまってそのこへ話しかけていた。

まだ肉球の綺麗な、若い猫さんだった。

チャイと同じ茶色のシマシマで、大きなお耳には傷一つなくて、

おしりには立派なタマタマがついていた。

一度も人間に捕まってTNRされること無く、自由に生きてきた猫さんなのだろう。

開いた口からは綺麗な歯ものぞいていた。

大きく見開かれた目は、びっくりしているようにも見える。

一瞬の出来事で、まだ死んでしまったことを理解してないかもしれない。

痛かっただろうなぁ。

こんな狭い道で猫さんが一瞬でこんなになるまで車飛ばしたやつ許せん…

そんなことを悶々と１人でしゃべりながら猫さんと時を過ごした。

最後くらい、見送ってやりたかった。

警察のお兄さんが来た。

三十代後半だろうか、プラチナの指輪をした、警察官独特の表情の無い感じの人だった。

でも、その人が猫さんの遺体に向かって手を合わせた時は驚いた。

刑事ドラマで観るような「ホトケさん」への合掌そのままだったからだ。

私も一緒に手を合わせた。

猫さん、人間のせいでごめんね、安らかに。

警察のお兄さんは鑑識の人みたいに帽子を後ろに被り直して、

白い手袋をし、その上に更にゴム手袋をして大きなゴミ袋を広げた。

新聞紙を敷いて、どうやらそこへ猫さんの遺体を入れるようである。

お兄さんが持ってきた段ボールはとても小さかったので、

本当に猫さんが入るのかを聞いたら「経験則から言うと大丈夫です」という軽い返事だった。

猫さんは死後硬直でカチカチなのでその時は本当に大丈夫かなぁと思ったけど。

警察のお兄さんはワンコを飼っているらしく、猫さんにも優しく接してくれた。

丁寧に抱き上げ、私が広げたビニール袋へ入れた。

やっぱり固まっていて猫さんカチカチなんだけど、なんとか無理矢理に段ボールへ収まった。

「猫死体在中」と書かれた段ボールはこれからどのような行程を辿るのだろう。

警察のお兄さんは猫さんが亡くなっていた前のお家の人に声をかけ、

バケツ一杯の水とデッキブラシを借りていた。

道路に着いた血を洗い流している。

警察官ってこんなところまで市民のために動いてくれるんだ。

申し訳ない気持ちであったが帰宅を促され帰路に着く。

猫さん…君の短いにゃん生、どうだった？楽しかったかい？

天気のいい、初夏の日に図らずも旅立っていってしまった猫さん。

せめて、優しい人や仲間達と過ごした時間が幸せだったことを願わずにはいられない。

チャイ、今日近所の猫さんがそっちにいったよ。

つらいこと

悲しいこと

もう無いから安心してって伝えてね。

チャイはいつまでもうちにてくれていいんだよ。

もう四十九日経ったけど、そばにいてほしいな。

ああ、だめだ。

チャイの姿が見えないの、やっぱりつらすぎるよ。

近所の猫の死