苦しくてもうダメだと何度も挫折しては、今まで這い上がって来た。
もういいじゃんって投げ出したくなったことなんて数え切れない。
誰にも相談出来なかった訳じゃないけど、彼等ではドン底に突き落とされたアタシを這い上がらせるだけの力がなかった。
だからマキオとミカのことを知らない占い師の所へ、新幹線を使ってネットカフェで泊まって翌朝の始発で引き返して会社に行くことになっても、アタシは再び這い上がる力を取り戻す為に通った。
この諦め切れない想いを信じる希望が欲しかった。
この想いを生涯貫くだけの強さが欲しかった。
世界中の人間全員がノーだと言っても、叩きのめされても、この想いを抱くことを赦して欲しかった。
アタシの人生がそれで失敗して、結婚はおろか閉経してオンナでさえなくなって、世間で言う寂しい御一人様のままで枯れて土に還ったとしても、これはアタシが決めたことなんだ、後悔なんてしない。
誰のせいにもしない。
きっと片思いに終わって時間の無駄だと笑われても、アタシにとっては宝物だ。
占いジプシーって、アタシみたいな人のことを呼ぶらしいんだけど、アタシを絶望の淵から這い上がらせてくれるなら、なんと言われてもいい。
嘘やおべっか、リップサービスは抜きで、本当のことが知りたかった。
今回は、本当は、もう諦めるけど、今まで支えてくれてありがとうって、そう伝えるつもりで新幹線に飛び乗った。
だけど、言わせてはくれなかった。言えなかった。
その占い師さん、辞めちゃってたから。
新幹線で折り返すには遅すぎて、代わりの占い師を指名した。彼女にすべて託そう、例えどんな苦しい結末だったとしても、感謝して終わらせよう、そんな気持ちでいた。
仙人のような独特な力強い口調で話す彼女に圧倒された。
「彼の渡米は貴女にとってチャンスで始まりだから、諦める必要に非ず」
「彼にとってミカは簡単にヤれるオンナでしかない、貴女とは比べる格が違う」
「彼が渡米することでミカだけでなく、彼の周囲のオンナ達は一人ひとり切れて脱落していく、他の身近なオトコに目を向ける、誰も残らない、だから安心するがいい。赴任先で待ち構えているのは老人か子供。恋愛に発展する対象がいない」
「彼と貴女には人間的絆がある。オトコとオンナだけの関係だけが絆に非ず」
「気楽な女友達を目指すべし」「あわよくばはなきにしもあらず。ゼロじゃない。結婚には至らなくても貴女の人生に花が添えられるだけでも良かろう」
カードなどのツールは一切使わず、ただ一室の空間で占い師と二人で話している。
名前と生年月日を書いた紙を見て、マキオやミカの性格傾向を時に毒舌に言い当てた。
別れる時にはアタシが抱えていた苦しみが消えていた。
渡米することを喜ばなければと必死で言い聞かせようとしてきたアタシ。
ミカとの関係に苦しんで、見ているのが辛くて自らの異動さえ望んだこともあったのに、いざマキオの渡米が決まって、その日が近づくにつれ、行かないでと声にならない叫びを上げていた。
それが彼女の言葉で心から見送ろうという気持ちに変わった。
彼女に観てもらって、気持ち的には充分だったけど、歯に衣着せぬ口調ではっきり言ってくれる占い師の所へはしごした。
5年間という時間を老いと戦いながら、この想いを貫くには、この予言がただのリップサービスではリスクが高すぎる。
疑うのではなく、アタシはこの想いを信じたかった。
もうひとりの占い師はほぼ同じことを言った。
今年、来年の10月と1月にアタシをマキオは強く意識することになる。
マキオはアタシを自分のお気に入りの1人として愛情を持っているが、自分から言ってはこない。年齢差から責任を意識すれば、好きなんだけどちょっと…という状態らしい。
マキオはミカに惹かれる相性で、過去に好きだったが、マキオの中では、彼女にどこか疲れる面を感じて今は終わってしまっているらしい。ただミカの方はマキオが物足りないと感じながらも相当好きで、マキオから好きだと言ってきてくれないかと待っているのだと。
マキオは渡米しても、仕事上での関わりは続くし、ミカとの縁が切れても、アタシとは何らかの形で繋がっていたいらしい。嫌いじゃないし、むしろ尊敬している。人間的な愛情を抱いてる。
赴任先で辛くなった時にアタシが支えることで、アタシを強く意識するようになる。
ただ元々モテる上、周囲のオンナ達が放っておかないので、辛い時期を過ぎれば、アタシへの愛情も一時的なものに成りかねない。
だからあまり期待してもらっても正直困るけど、全く可能性がないわけではないと、この占い師も言った。
5年間という時間をかけて束の間の恋愛を貫く、それでもいいと思った。
今すぐこの想いを捨てることなんて、アタシには到底無理だったんだから。
もう5年目、マキオを好きになって。後5年間で10年。
初めての恋人を忘れるのに12年間かかった。
待つのは昔から苦じゃない。
アタシの肉体への老いは待ってはくれないだろうけど、マキオの為に、アタシ自身の為に、可能な限り努力したい。
下瞼の皺が、白髪が、身体の贅肉が老いを自覚させる。
生理の血が少なくなっていくにつれ、オンナでなくなっていく。
マキオが戻ってきたらアタシはオンナでなくなって、正真正銘のオバサンになっている可能性は高い。
それでも、この恋に生きる。
生きたい。
諦めて後悔する位なら、泣いたって貫く方がいい。
自分から本当に諦めようと思える時まで。
好きでいられなくなること程、辛いことはないから。
彼の為に、輝き続けられるように、そう願いつつ、努力は惜しまず、生きていきたい。
最後の恋にする覚悟で、アタシはここで決意表明するよ。