2009年の読書記録です。子供と映画を見に行った時、次回上映予定とあった『愛を読む人』のチラシを見つけました。原作が随分売れたと書かれていたので本屋さんで単行本を購入しました。原作のイメージを壊したくなかったので結局映画は見ませんでした。

 

 


通学途中に気分が悪くなった15才の少年ミヒャエルは、介護してくれた母親位に年上の女性ハンナと関係を持つようになる。彼女は彼が学校で勉強してくる事にとても興味を持ち、又彼に本の朗読をしてもらう事を楽しみにしていた。親や友人には内緒の秘密の時間を楽しむ2人。だが彼女は急に少年の前から姿を消した。

★内容を知りなくない方は以下は読まないでください★


数年後大学生になった彼はゼミでナチス絡みの裁判を傍聴した。その時被告人として出廷する彼女と再会する。彼女はおそらく無実である。だがある秘密を隠す為にその罪を受け入れ服役した。彼は彼女が無実である事を訴えたかった。しかしそうすれば彼女がどうしても守りたかった秘密が明らかになってしまう。彼は以前2人であって居た時の様に本を朗読し、それをテープに録音して彼女に送り続けた。

彼女の出所が決まり、刑務所の所長に呼ばれて彼は数年振りに彼女と再会する。年齢以上に年老いてしまった彼女に驚きながらも、出所後の再会の約束をする。そして出所の当日.....彼女は早朝自ら命を絶ってしまった。

朗読者の主人公ミヒャエルはハンナをとても愛していて、一緒に居る時も彼女が姿を消してからも彼女の存在自体にとても苦しんでいたと思います。それに反してハンナは自分の気持ちに気付いていなかったのではないかと思いました。だから自分の秘密を周囲に隠すために彼の前からも姿を消したのだと思うのです。けれど服役後、彼から送られてくる朗読のテープを聞き、自分がどれだけ彼を愛しているかに気付いたのだと思います。

ハンナのプライドの高さは、ミヒャエルが10代の時の彼に対する高飛車な態度や、当時の仕事を捨ててまで(その為に失踪した)も、又無実の罪を背負っても自分が文盲である事を周囲に知られたくないと言う行動に現れていたと思います。だからこそ、彼を愛していると気付いても彼に面倒を見てもらう事や年寄りになった自分の無様な姿をさらす事に耐え切れず死を選んでしまったのではないかと思いました。

刑務所の女性所長が後から彼に「ハンナに何故手紙を書いてあげなかったのか」と責める場面がありました。読み書きが出来る様になったハンナが彼に手紙を送り、彼からの返事を待っていたと言う事は彼にも判っていたのだと思います。けれど、彼は姿を消しても彼の人生にずっと影響してしまったハンナと一定の距離をおかずに接する事があまりにも怖かったのではないでしょうか。

戦争の影を引きずる混沌とした時代、非識字者の抱える心の闇.....と単なる恋愛小説ではない素晴らしい作品だと思います。.........ただ読んだ後になんともやりきれない悲しい気持ちになってしまいました。