二十四.その恋文、お前が書いたのか?(1) | のあのあlife

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『雲が描いた月明かり(구르미 그린 달빛)』に史上最強にどハマリしてしまい♡2017年も自分の勉強兼ねて原作小説を翻訳しつつ、パク・ボゴム君とキム・ユジョンちゃんのボユカップル、密かに熱烈に応援中です~♡(笑)
2021年4月、またこのブログ再開します☆

パク・マンチュンは何度繕ったのか知るすべもない、みすぼらしい道袍(トポ:両班が外出するときに羽織る上着)を来て、笠(カッ)の紐を結びなおした。

「オホ。これはどうしてこんな風に曲がったんだ。」

全てが潰れた笠(カッ)は、どのようにしても、形が出なかった。こちらを合わせると、反対側が傾いて、他方を合わせると、またとんでもないところが傾いた。それでも、パク・マンチュンはそれなりに形を出すために必死になった。その時、部屋の片隅で砧打ち(木槌で平らな石の上に置いた布を打つこと)をしていた妻のキム氏の声が聞こえて来た。

「アイゴ~。その様は両班だ。」

妻の露骨な皮肉にパク・マンチュンがわざと訓戒するように言った。

「オホ。コイツ(イサラム)。どういう意味だ?私の恰好のどこがどうだと言うのだ?」

その一方で、もう一度笠(カッ)を直して被ることを忘れなかった。

「そんなにも偉そうな両班が、科挙をどうして毎回落ちられるんでしょうか?」

「君(チャネ)は学士(ソンビ)が学問を極める理由が、単に科挙のためだとでも考えているのか?」

「言葉だけでも言えないとね。」

「オホ。コイツ(イサラム)。男大丈夫(サネテジャンブ)の高い志を君(チャネ)がどうして知ることができようか。本来、鳳凰(ポンファン)が空を飛ぶには千年間、羽ばたきを練習せねばならないと言うのに。」

夫の言葉にキム氏が嘲笑を浴びせた。

「ほぉ、あんたが鳳凰(ポンファン)。羽ばたくだけで老いて死ぬんだ。」

「そう言う言葉があると言うのだ。言葉が。」

「それにしたって鳳凰(ポンファン)ってやつはいつかは飛んだりもするようね。うちの家の米くい虫はいつまでも米だけ食って羽ばたきもしないのにさ。」

細くて長い目でパク・マンチュンを睨んだキム氏の、砧の音が一層大きくなった。今砧を打つ洗濯ものが、まるで夫でもあるかのように、キム氏は振り上げる腕に大きく力を込めた。

「そんな小者も旦那だと一生食わせていくなんて。おかしくなりそう。おかしくなるわ。」

パク・マンチュンは耳元に響いてくる妻の言葉を、片耳から聞いては片耳から聞き流していた。しばらくの間、コホンコホン。変な咳払いだけ連発して、彼が言った。

「ちょっと出てくる。」

「こんな夜分にどこに行くって言うの?またどこか賭博場にでも入るつもりなの?」

「オホ。学問を収める学士(ソンビ)がどうして軽々しくも・・・・。」

「あんたの学士(ソンビ)節は・・・・。犬も食わない学士(ソンビ)みたいなこと辞めて、どっか行ってお金でも儲けて来てください。」

「オホ。コイツ(イサラム)。どうしたら学士(ソンビ)に向かって出稼ぎだなんて・・・。」

一瞬、キム氏の目が空の上へ吊り上がった。

「コホンコホン。まぁ。人が成長するものだ。私の磨きをかけた初試(チョシ:科挙の最初の試験)に良い成果があるのか一度なりともかけてみてくれ。」

パク・マンチュンは、真っ赤な目をした妻を避け、急いで家を出た。彼の背に、妻キム氏の口癖は延々と続いた。

「アイゴ~。私の運勢(パルジャ:八字:運命)ったら。私がこんな風に生きていく人じゃないのに。どうしたってあんな貧しい人(ヤンバン:妻が旦那を呼ぶ呼び方)に出会ってこんな様で生きているんだ。アイゴ~。私の運勢よ。」

胸を打つキム氏の愚痴も、パク・マンチュンは、ただ変な咳払いを連発しただけだった。科挙の勉強をしながら、一生涯本だけを漁って来たので、妻は常に働かねばならなかった(妻の手に水が乾くこともなかった)。日が昇ることを待っていた純朴な妻は、いつの間にやら恐ろしい顔つきで小言を言いまくる悪妻になり、パク・マンチュンの方も日増しに日焼けするようになった。

枝折戸を開けて外に乗り出したものの、居心地が悪い気持ちは同じだった。彼を見ている町の人々の目つきが良くはないせいだった。表向きは恵まれた両班だが、一生涯を科挙試験のためだけにこだわって自分では食べていくこともできない彼が、よく見えるはずがなかった。今ではお金で両班の身分も買える時代、没落した両班を見つめる人々の視線には、露骨な冷遇と嘲笑に溢れていた。

パク・マンチュンの肩がさらに下がった。遠いところを見ている視線も、下がった方と共に、のろのろと歩くつま先まで落ちてしまった。とぼとぼと力なく歩くと、枝をだらりと垂らしたやなぎの木(ボドゥナム)が現れた。

「ほぉ、お前も家内から打撲でも受けたのか?肩をすごく垂らしてるのだな。」

パク・マンチュンは不憫だとでも言うように、やなぎの木を軽く叩いてやった。通り過ぎていく人々が、彼の様子を見て、チッチっと舌を鳴らした。

木の下で無駄に時間を過ごしていた彼が、再び足を動かした。香ばしい匂いだ立ち上る居酒屋を過ぎて、騒々しい路地へと入った。狭い路地をどれほど歩いただろうか?ひっそりとした路地の内側に、小さい門が現れた。そして、しばらくきょろきょろ見回したパク・マンチュンが、門にある丸い取っ手を握って、何度か叩いた。トットットッ。小さな叩く音が聞こえるやいなや、中で人の気配が聞こえて来た。

「どなたですか(ヌグシオ)?」

「虫單吟(ソンウム)だ。」

セミの鳴き声を意味する虫單吟(ソンウム)とは、パク・マンチュンの号であり、暗号だった。自分の姿が、真夏、世の中の外へと出るために長い年月を地中で過ごすセミと同じだとして、自らそうしたのであった。すると門が開かれて、黒い影が現れた。

「皆待っておりました。」

「分かっている。」

静かに頭を頷かせたパク・マンチュンの顔は、今までとは全く違った。下がった肩は、張った弦のようにぱっと開き、後ろ手を組んで、のっしのっしと歩く足取りには力が宿っていた。無気力に下がっていた顔に、活気があふれ、下がっていた口元には自信満々な笑みで満ちていた。もしも、今、彼の姿を村の誰かが見たとしたら、同じ人かどうか疑ってしまうほどだった。

柔弱で、能力のない両班の仮面を脱いだ彼が出した鋭い目つきで、周りを見てから、内側の奥深いところへと足を運ばせた。

「こちらです。」

彼を案内した男が示した門の前で腰を下げた。黄色い韓紙(ハンジ)を貼った門に不格好に描かれた丸い円が一つあった。この丸い円が、実は月(タル)を意味することを知っている人は、朝鮮八道に、間違いなく百人しかいなかった。そして、虫單吟(ソンウム)パク・マンチュンもまた、その百人の中の一人だった。パク・マンチュンが扉を開けて部屋へと入った。

やがて長方形の長い部屋の中に、九十八人の人々が、長く二列に向かい合っているのが、目に入ってきた。九十九番目に隊列に合流したパク・マンチュンは、静かに自分の席へと座った。今日の夜は、パク・マンチュンが属している、白雲会(ペクウンフィ)の秘密の会合がある日だった。

 

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めっちゃ長くなったので、やっぱりカット。

 

ちょっと休憩~★