東宮殿の庭園へとつながる道。鬱蒼たる木々たちの間、小道があった。その道を歩きながら、ラオンは、周囲を見回した。
「ここのどこかにいらっしゃるって言っていたんだけど・・。」
小さく独り言を言いながら、どれくらい歩いただろうか?大きな岩の裏で、小さな影がちらりと見えて、また隠れた。ラオンは影に向かって急いで足を運んだ。
「チャン内官様!」
岩の後ろで、地面に懸命に何かを書いてから消したチャン内官は、不意の呼び声に驚き、地面に仰向けになってひっくり返ってしまった。
「わぁ、ホン内官(アイグー、ホンネガン)。」
「驚かせてしまいましたか?どこかお怪我はありませんか?」
「いや、いや、大丈夫ですよ。」
急いで身体を起こしたチャン内官は、つま先で地面を慌てて掃いた。おかげで、地面に書かれた文字は跡形もなく消えた。
一体何をそんなに一生懸命書かれていたのかしら?
気にはなったが、努めて隠すような様子に、到底聞くことはできなかった。
「ところでホン内官。こんなところまで何の用ですか?もしかして、私を探して来られたのですか?」
「はい。伺うことがありまして。でも・・・。」
言葉を濁したラオンは、チャン内官の表情をうかがった。
「チャン内官様、どうしてそんなにもお疲れの様子なのですか?何かありましたか?」
最近、チャン内官は世子邸下の寝所の掃除をしていた。世子邸下の複雑な性格を満足させた一人、チャン内官の手先の器用さの噂で、宮殿は騒々しかった。時には、いつ頃チャン内官が東宮殿の外に放り出されるかと期待するような性根の悪い人たちもいたが。それでも、チャン内官は見せつけるように、うまくやっている様子を見せた。
そのようなチャン内医官様の表情がどうしてあぁなのか?
「もしかして、世子邸下に問題でも起きたのですか?」
岩の片側に腰かけたラオンが聞いた。チャン内官は元気なく頭を振ると、ラオンの側に並んで座った。
「ではどうされたのですか?」
「心配なのだ。」
「何が心配なのですか?」
「世子邸下のことだ。」
「邸下がどうされたのですか?」
「私だけ見て、しきりにため息をついていらっしゃるのだ。」
「ため息をですか?」
「そう。それだけならば私もこんなにも悩むこともないのだが。」
「それでは、まだ何かあるのですか?」
「邸下が、私の素性について、あれこれ下問されるのだ。」
「はい?邸下が、なぜチャン内官様の素性をお聞きになるのでしょう?」
「だから、私もその理由が分からないのだ。しきりに私が誰と親しいのか、朝には誰と会うのか、資善堂には毎日行くのかなど、下問されて、また、下問されて・・・・・・はぁ。」
王世子が気になっているのは実は、自分ではなく、ラオンのことだということを全く知らないチャン内官は、頭を振って、しきりにため息をついた。
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(笑)
完全に、勘違いしていくチャン内官です(笑)