「ナツメ茶にございます。」
チェ内官は松の実を浮かべた赤いナツメ茶をヨンの前に差し出した。ナツメの赤い色が邪なる物の接近を防ぎ、ナツメ独特の甘さが、世子邸下の鋭い神経を安定させて昼夜を楽に過ごせるよう祈願する、年老いた内官の心が一杯のナツメ茶には盛り込まれていた。茶を飲んでいたヨンが、ふとチェ内官へと聞いた。
「あれはどうなったのだ?」
前後の言葉が全て省略された質問だった。しかし、全部分かった上で聞いていたチェ内官は、急いで答えた。
「今回もやはり・・・。」
「やはりそうか。簡単に実現することではなかった。だが簡単に放棄することもできない。もう一度人を送るのだ。」
「かしこまりました。」
「それから・・・。」
「はい、邸下(チョナ)。」
「宮女(クンニョ)たちの処遇を改新せねばなるまい。」
「宮女たちの処遇をでございますか?」
世子邸下がなぜ突然宮女たちのことに関心を持たれたのだ?
チェ内官の顔に疑問が生じた。
近しい親族の喪(サン)があった宮女たちに、半月間の休暇期間を与えよ。また、葬儀に必要な費用を融通する案を模索せよ。」
「かしこまりました。(ミョン パドゥルゲッナイダ:命、お受けしました。)」
「これはただ宮女に限ったことではない。宦官たちにも適用するようにせよ。」
「聖恩の限りにございます。(ソンウニ マングックハオムニダ)」
すでに王世子が参政し始めてから長かった。世子ヨンの言葉は王の王命も同然だった。
「あと一つ!」
「・・・・・。」
「内侍府ではまだ新参礼を行っているのか?」
本心をも見通しているように睨みつけてくる目つきに、チェ内官が頭を下げた。
「下人たちを全て率いているというのに・・・申し訳ございません(ソングハオムナイダ;恐縮しております。)」
「今日以降、新たに入って来る新来に飯粒一つでも奢らせる者があれば、削奪官職(サクタルカンチク)するだけでなく、杖刑100回で罰するとせよ。」
「肝に銘じておきます。(ミョンシムハゲッナイダ)」
頭を下げるチェ内官の頭の中に、突然疑問が浮かんだ。命を下す世子邸下の声は、間違いなく痺れる程に冷たいことこの上なかった。しかし、言葉の中に含まれた底意は温かかった。
誰もが気にも留めない宮女たちや、内官たちを考えていることに違いはなかった。
氷刃のように、全てにおいて冷たく、厳しいだけだった方が、どうしたことだろう?東宮殿の至密内侍(チミルナイン;至密で王や王后に仕えた内侍)たちの話では、最近はまれに、本当にまれに、一人でいらっしゃるときに、不意に笑顔を見せることがあると。あの硬い氷壁に温もりが吹き始めた理由は何なのだろうか?
チェ内官は、ふと、ヨンの幼い時代を思い浮かべた。
その時はよく笑った。その時は、このように冷たい方ではなかったのだが。
老いた内官の顔に、残念な光が見えた時だった。茶を全部飲み干したヨンが席から立ち上がった。誠正閣から出たヨンは、突然チェ内官の方へと振り向いた。
「これから、私の寝所の掃除は今日の掃除を担当した子に任せたい。」
「はい?」
「かなり手際よく見えたな。」
当然あるべきところに文箱を移したと言っていたラオンが思い浮かばれた。ヨンの目には、ラオンは他の宦官たちとは違っていた。ただ下される命に従いつつも考えることもできない、人形のように動く他の者たちとは違い、ラオンは自分の考えと言う言葉を持っていた。
命を下したヨンは、愉快な顔で誠正閣を出て行った。
「・・・・命、お受けしました。」
黒い袞龍袍(コンリョンポ)の裾を翻して消えた主君の姿が、今日は本当に見慣れていないようで、チェ内官は皺の寄った目をしきりに瞬かせた。チェ内官が世子に仕えてから初めてのことだった。人でもなんでも、邸下から関心を向けた者は一度もなかった。驚いたチェ内官は慌てて頭を下げた。
あの方の周りを回る空気が温かくなった理由はもしかして・・・・!
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にまにま・・・
明日から掃除、アイツが来るのか・・
(笑)(笑)(笑)