資善堂へと走ってきたラオンは、急いで押し入れの中を探した。
「何を探しているのだ?」
ヨンが関心を示した。ラオンは押し入れで見つけた紙と筆を彼の前で振って見せた。
「紙と筆ではないか?それで何をするつもりなのだ?」
「供膳(チェサン:祭祀の時供物を供えるお膳)を作ろうと思います。」
「供膳?」
「花草書生の仰る通りでした。」
「何?」
「ウォリ医女様(ウィニョニム)が着ている服は白装束でした。昨年の洪水でたくさんの人が亡くなったではないですか。その時、ウォリ医女様のお祖母さんも亡くなられたのだそうです。それなのに・・・宮殿に縛られていたので、お祖母さんの供養すらできなかったそうです。なので、お祖母さんの命日に合わせて、その方が去る時にして差し上げることができなかった哭を今しているということでした。」
「そうだったのだな。それで、供膳(チェサン)とは?」
「その医女様の持っていらっしゃる物は、お祖母さんを懐かしむ気持ちだけなのです。供膳(チェサン)といってもこしらえられるものが水一杯だなんて、あんまりじゃですか!お手伝いしたいとは言え、ご存じのとおり私もやはり持っているものがないし・・。だから・・・こうするだけでもしてあげたくて。」
務めて明るく話してはいるが、両目はしっとりと濡れていた。ごしごしと目を擦って水気をふき取ったラオンは、紙を広げた。そうして絵を描き始めた。一番上の方に祠堂(サダン)を。そして、その前に大きな卓子を描いた。卓子の両端には火の灯った蝋燭を二本を。それから、空いた部分にはたくさんの絵を描き込んだ。
見守っていたヨンの目に、好奇心が浮かび上がった。ラオンが今描いているその絵、それはまさに、感慕如在圖(カンモヨチェド)だった。家の中に祠堂(サダン)がない両班や、外地に出向いていて、祭祠(チェサ)を務められない者たちが、このように絵に供え物を描いて祭祠(チェサ)を送ったりした。
きちんとした祭祠を送ることができない幼い宮女のために描くのか?なかなか気心が深いものだ。
ラオンを見つめるヨンの目つきがさらに深まった。
だが・・・・。
「それで、今描いているそれは林檎ではないだろうな?」
「どうしてですか?どう見ても林檎ではないですか?」
「では、その横にあるものは、魚で合っているのか?」
「はい。」
あまりにも堂々とした答えに、ヨンはただ顔を背けてしまった。かなり立派な字を書くやつだから、絵も当然うまいと思っていたのに、そうではなかったようだ。見た目のいい餅は食べてもいいものだとは言うものだ。例えどんな絵でも、供膳でも、それはとても美味しそうに描かなければならないのに。ラオンが描いた絵は、林檎は梨と区別がつかず、魚は悲壮で、その隣で一生懸命描いていた鶏などは、下に鶏だと注釈をつけてやりたいほど、めちゃくちゃだった。見ていられなくなったヨンが、ラオンを横へと押し出した。
「どいてみろ。」
「何をなさるんですか?」
「お前が描いた柿を見て、誰が柿だと言うのか?この鶏もまたどうだ?この絵を見て、まともに食べることのできる魂がどれだけいると思う?」
ラオンから筆を奪ったヨンは、新しい紙に、さらさらと絵を描き始めた。丁寧に紙の上を横断するヨンの筆先から、様々な食べ物があふれ出してきた。
「本当に美味しそうに見えます。」
ヨンが描いた絵を見て、無意識にごくっと生唾を飲み込んだラオンが、意味深な顔で言った。
「今分かりました。」
「何が?」
「花草書生が何のお仕事をされていらっしゃるのか、今分かった気がします。」
「そうか?」
ちょっと筆を置いたヨンが、ラオンの方を振り返った。
「私が何をしている人に見えるのだ?」
「こんなにも素晴らしい絵を描かれるところを見ると、絵師(ファウォン)に違いありません。合ってますよね?」
確信したように話すラオンを見て、ヨンが呆れた表情で言った。
「違う。」
「違うんですか?でも、そんなにも絵がお上手なのにですか?」
「私は字も上手く書く。」
「では、字もお上手な絵師?」
「・・・・・・。」
「違いますか?では、花草書生は何をなさっている方なのですか?」
「知りたいのか?」
「はい。知りたいです。」
「そうか・・・・・。」
ヨンが言葉尻を長く伸ばして、ラオンをじっと見つめた。あの口から、どんな言葉が出てくるのかしら。ラオンは集中してヨンの口だけを見つめた。
やがて、ヨンの口が開かれた。
**************************************この章、あと少し、続きます☆
ヨン、面白いですよね( ´艸`)見ているだけで我慢できずに、自分で描いちゃった(笑)
キスした後ですよ(笑)男同士だと思っているけど・・о(ж>▽<)y ☆本当に、なんかじりじりきゅんきゅんしちゃう二人です(笑)(*`▽´*)ウヒョヒョ