<松岡圭祐小説を時系列順に読もう~その3~>
松岡圭祐『催眠 完全版』
この作品のp408を読んだ時には、大変驚きました。前の部分へ戻って「なるほどなるほど」と感心した憶えがあります。
しかしながら、冷静に読んでみると、改訂した部分と、そうでない部分とで矛盾が生じてしまっている箇所があります。これはクラシックシリーズではよくあることであり、残念な部分です。
・入絵由香は本作のみの登場です。小学館版では、千里眼シリーズの『ミドリの猿』『運命の暗示』にも登場します。
・嵯峨の見た目は、単行本ではスポーツマンタイプでした。映画化以降は稲垣吾郎風になります。
・角川版では、嵯峨の年齢は31歳になります。
・鹿内明夫も今は「チャラ男」な感じですが、最初は「色白な機械オタク」という感じでした。
・小宮愛子、これが問題の人物です。もうちょっと整合性をちゃんととってくれれば・・・。
・倉石勝正の役職は「室長」となっています。「部」の下に「室」があって、その長ということでしょうが、室の名前は出てきません。
・外山盛男警部補は、小学館版では「そとやま」でした。「千里眼トリビア」によると「版元がルビを間違ったから」ということですが、角川では晴れて「とやま」になりました。ちなみに「千里眼トリビア」は100個あります。何とか全部見ることができました。
・世界観の統一を図った角川版において、「東京カウンセリング心理センター」と「東京カウンセリングセンター」の名称を一本化しなかったのはなぜなのでしょう。疑問です。
・日生証券経理部長の財津ですが、小学館版では「信二」と「信治」が混在していましたが、角川では「信二」で統一されました。
・倉石と下元佑樹の関係。倉石が下元について「彼は大学の後輩ですが」と説明します。しかし、その後の二人のやり取りをみると、どうみても下元が先輩、倉石が後輩です。ここは、下元がとんでもなく無礼なやつで、先輩に対してもタメ口で偉そうな態度をとり、倉石はそんな下元に対して真摯にふるまう性格なのだ、ということで強引に解釈します。ちなみに小学館版では、この倉石の台詞は無く「倉石にとって下元は大学の先輩にあたる」という地の文があります。
・「横領犯はあなただったわけです」「ちょ、ちょっと待て!」には笑いました。
・入絵由香に代わるネタを探していたテレビ局は、「友里佐知子が、変わり種の臨床心理士を雇うことになった」という話題を追うことにします。この変わり種臨床心理士というのが、岬美由紀のことです。ここが時系列判断の根拠になって本作は『千里眼 完全版』より前ということになります。