山間の盆地に建つのはいつ誰が造り上げたのかも定かではない古の城だ。
 点々と広がる小さな湖の間を抜けて、古城へと近づく。外装は古ぼけ、半ば崩れているが、入口となる正面の扉は未だ健在のようだった。僅かに開いた扉の隙間からは、何とも表現できぬ異質な気配がずるずると漏れ出していた。

 城の内部は外見通りのものではなく、酷く滑らかな壁によって作られた半球の構造を持っていた。
 その大きさは明らかに異常で、外からみた城の外観を完全に無視している。入口となる正面門は円形のドームの中央、何も無い空間にばっくりとその口を開けており、そこからは外の景色が見えるが、裏側へと回れば入口は姿すら見えず、真横から見れば細い光の線が一本縦に走っているのが見えるだけ。一種の転移門か何かと考えるのが妥当だろう。
 円形ホールの中央床部には象形による複雑な陣が書かれており、円の縁となる壁には八つの窪みがある。
 窪みはどうやら扉であるらしく、五味が手で触れると壁の一部が音もなくずれて開く。八つの扉の内の七つには奥に小部屋があり、それぞれ独自の概念を凝縮した小世界を構成しているらしいことが、神形の補助を受けた己の感覚が教えてくれた。
 残る一つの窪みは他の七つよりも大きなもので、触れて開けばその奥には、捻れた様に渦巻く七色の虹の輝きがあるだけだった。



 七つの扉の奥に広がる小部屋。それぞれの部屋の中央に造られた台座には、エルツァンの各所で手に入れた奇妙な品が安置され、部屋を埋め尽くす異質な概念を調律している。
 七つの部屋から生み出された整えられた小さな世界の力は、床に描かれた象形を辿ってホールの床全てを淡い輝きで埋めて、中心で一つの光となったそれは五味の身体を経由するように通ってから、八つ目の扉の向こうで渦巻く虹色の中へと伸びていた。光は虹色へと混じり、七色にもう一つの色彩を乗せて八色の渦とする。
 そして渦の光度が上がっていき、捩れの中心がゆっくりと解け始めてその向こう側を写し始めた。
 輝きの向こうにあるのは──深い闇。
 いつか見た黒い切り株の向こうを思い出させる暗く落ちた藍色の空の彼方には、赤色の三日月が映っている。
 ぢりぢりと、首飾りの形を取っていたゼーレンヴァンデルングが音を鳴らす。
 それはこの虹色の向こう、あの藍の空が広がる異界のどこかに“鬼喰らいの鬼”が居る事を報せてくれたが、同時に鬼芯を封じるという“檻”の存在もはっきりと知覚させてくれた。
「…………」
 まだ虹色を超えて“向こう側”へと渡っていないにも関わらず、強烈に圧迫される精神。
 だが、ここで退く訳にも行かない。
 五味は覚悟を決めると、仲間達に合図。そして一歩、虹の向こう側へと踏み出した。

──See you Next phase──