参議院の施設見学がなんと無料でできる! けちな僕としてはただで学びを得られることが朗報に思えたので、足を運んでみた。

おばさまおじさまの団体客30名ほどと、当日参加の中年夫婦、そして僕という構成で、施設見学はスタートした。

誘導・解説を担当するのは警備員の格好をした30歳前後の男性だ。

短く切り揃えた髪。黒縁メガネに均一な太さの逆ハの字の眉。顔立ちがユーチューバー兼作家の「えらいてんちょう」さんによく似ていらっしゃる方だった。

一番よく覚えているのは、警備員さんの肩に数本の短い髪が乗っていたことだ。来る前に美容院にでも行かれたのだろうか?

正直僕は不安であった。いただいたパンフレットの裏には、見学の申しこみは『警務部傍聴参観係』まで連絡をするようにとある。つまりこの方、警備が本職でいらっしゃる。失礼ながらそんな方が、的確な解説をしてくださるのだろうかと僕は危惧した。マニュアルの文章を丸暗記して話してくださるだけに違いない。それでも学びは十分に得られるし、まあいいかと思った。

 

我々がまず最初に案内されたのは、本会議場。建物の23階部分が吹き抜けになっており、天井には青緑色のステンドグラスが輝いている。傍聴席に腰を預け、警備員さんのお話を伺う。

 

正面中央はステージ上になっており、金色の煌びやかな枠に彩られた豪華な席がひとつあり、我々のほうを向いている。見学者向けに解説用の札が下げられており、「お席」と書かれている。この席は開会式の際に天皇陛下がお座りになる場所だそうだ。政治になんの関心も抱いていなかった愚か者の僕としては、「開会式なんてあるのか」とまずそこから愕然とした。

その前には議長席。それぞれの議員が座る議席は議長側を向いており、半円形に設置されている。参議院議員の定数は245名だが、議席は460席も用意されている。これはかつて貴族院議場として使用されていた名残らしい。

議長席からの目線を辿っていくと、会場内で最も高い位置にある区画が出現する。そこには「御傍聴席」という札が立てられていた。天皇陛下が会議をご覧になる際に使用する席だと聞いた。天皇陛下ともあろうお方が議会を見ることがあるのか、そりゃそうかこれは国会だからなぁ、などと根本的な部分で僕は驚倒した。普段ニュースを見ていないことが判明した瞬間であった。

 

15分ほどかけて警備員さんは解説を終え、質疑応答のコーナーに移った。

何か質問はないかと集団に問うと、ひとりの男性見学者さんが尋ねた。「エアコンってあるんですか」と。

警備員さんはそれに対し、即座に「今はありますよ。けれど建設当初はそんな便利なものはなかったので、扉の上の吹き抜け口に氷を設置して冷気で温度を下げていました。室温は3度ほどは下がるそうです」と回答した。

また記者席の背後の奇妙な穴について、「昔はメールなどなかったので、下で待機している別の記者に会議内容をすぐに伝えられるよう、この穴に丸めた手紙を落として情報伝達を行っていました」と解説してくださった。

いち警備員に過ぎない存在で、暗記したことをただ喋るだけと思っていた僕は驚愕した。

いやきっとそのくらいは質問があると見こんで、一緒に暗記してきたに違いない。

 

それで僕はつい、少し気になっていたことを聞いてみることにした。

「なぜ『御傍聴席』の『御』は漢字なのに、『お席』の『お』はひらがななんですか?」

と。

警備員さんは質問が予想外だったのか、一瞬たじろいだように見えた。

やはりそうか、特定の質問を暗記しているだけなのだ。

 

しかし警備員さんは、すぐに回答を開始した。

「昔は『お席』は玉座という名前でした。しかし見学者に対して分かりやすくするため、最近『お席』に変えられました。『御傍聴席』は前々からずっとある席なので、表記は昔からこうです」

グフゥン!!!!!!!!!!

納得する他ない的確な答えであった。

きっと先ほど一瞬考えこんだように見えたのは、僕みたくアホそうな若者がどや顔で質問を飛ばしてきたことに驚いたのだろう。

その後も警備員さんは、見学者から出る質問に答え続けた。

 

続いて御休所(天皇陛下の待機室)、中央広間と一行は案内された。警備員さんの「雨が降っているので傘のご用意を」という早めのアナウンスにより、スムーズに外に出た我々が、最後に国会議事堂を正面から見たぐらいのときには、僕はすっかりこの警備員さんのファンになっていた。

 

やはりここは国の中心の場所なのだ。

優れたお方が集まっていて当然なのだ。

 

議事堂そのものより、警備員さんに感動してしまった見学会だった。

発見は予想外の場所に転がっていたりするのだと再確認した経験だった。