捜査関係者によると、押尾容疑者は事情聴取で「MDMAのことが発覚するのが怖かった」との趣旨の供述をしていることが判明。しかし、保釈中だった10月には、TBSの取材に「オレは救急車を呼ぶよう、別のヤツに頼んだの。そいつがちゃんとやってなかったんだよ。救命措置をしていたんだ。オレは助けようとしたんだ」と責任転嫁し、自己弁護していた。

 

田中さんが3時間近く“放置”されていたことは事実。同課では押尾容疑者が薬物使用の発覚を恐れ、適切な救護措置を怠った可能性が強いとして当初、立件をめざしていた保護責任者遺棄容疑でも捜査を進めている。この日、押尾容疑者が泉田容疑者から受け取ったMDMAを田中さんに譲った疑いと、遠藤容疑者が事件後に田中さんの携帯電話を破棄した疑いで、東京・多摩市の押尾容疑者の実家など、関係先3カ所に家宅捜索が入った。

 

逮捕後は東京湾岸署の個室を与えられ、夕食をすべて平らげた後、ぐっすりと就寝、朝食は半分ほど食べたという押尾容疑者。空白の3時間、いったいどんな心境で、田中さんを悲劇に追い込んでいったのか。


薬物中毒で死亡した銀座のクラブホステス、田中香織さん=当時(30)=に合成麻薬「MDMA」を譲り渡したとして、元俳優の押尾学容疑者(31)が麻薬取締法違反(譲渡)の疑いで逮捕された事件で、田中さんの携帯電話から押尾容疑者とのメールの一部が消去されていたことが9日、捜査関係者への取材で分かった。

 

押尾容疑者は、8月2日に田中さんと落ち合う前、田中さんの携帯電話に「来たらすぐいる?」とメール送信。田中さんが「いる」と返信するなどしており、警視庁捜査1課はメール内容が押尾容疑者によるMDMA譲渡を立証する状況証拠になるとみている。

 

田中さんの携帯電話は証拠隠滅容疑で逮捕された元マネジャー、遠藤亮平容疑者(28)が捨てたが、警視庁が発見。捜査1課は携帯電話会社に照会したほか、押尾容疑者の携帯電話のメールと付き合わせるなどした結果、田中さんの携帯電話から押尾容疑者とのメールの一部が消去されていることが分かったという。捜査1課は押尾容疑者のMDMA譲渡、使用に関する証拠を隠滅しようとした疑いもあるとみて、誰がメールを消去したかなど詳しい経緯を調べている。


捜査1課の調べによると、死亡した銀座のクラブホステス、田中香織さんは8月2日、東京・六本木ヒルズの一室でMDMAを服用し、午後6時前後に気分の不調を訴えた。意味不明な言葉を口にするなど副作用とみられる症状が出始め、同6時半ごろ、体をけいれんさせ、泡を吹き始めるなど容体が急変。同6時50分ごろ動かなくなった。この時、すでに呼吸が停止していたとみられる。

 

押尾容疑者は午後7時ごろから、異変を伝えるために関係者に電話やメールで連絡。約40分後に友人のネット販売業、泉田勇介容疑者(31)=麻薬取締法違反(譲渡)容疑で逮捕、元マネジャーの遠藤亮平容疑者(28)=証拠隠滅容疑で逮捕=ら4人が現場に到着。そのうちの1人が119番通報したのは同9時19分ごろだった。押尾容疑者はこれまでの事情聴取に、田中さんが急変した後、「心臓マッサージを行った」などと救命処置を行っていたと主張。実際、田中さんの遺体は肋骨(ろっこつ)が折れるなど、マッサージをした形跡はうかがえるという。

 

だが、捜査1課が押尾容疑者や関係者に事情聴取を重ねた結果、押尾容疑者が救命処置を行ったのは田中さんの呼吸停止直後ではなく、関係者に連絡を入れる過程で心臓マッサージを始めた可能性が強まった。同課では押尾容疑者が薬物使用の発覚を恐れ、適切な救護措置を怠った可能性が強いとして保護責任者遺棄容疑での立件を急いでいる。