「今回の“隠れ蓑”なんて一時的なもんだろ?しばらくはマンションも張られたままだろうし…あのコ…サトちゃんが局のスタッフだとか、素性バレちゃってんじゃないの?」
「そこまでは…わかんないけど。確かに当分会ったりはできないと思う」
そう答えながら。
本当はもっと、松潤の言ったことも含めて。
色んな事を考えていた。
だけどそれは考えれば考えるほど苦しくて。
辿り着きたくない答えに辿り着きそうで。
その寸前で無理やり自分の思考に蓋をした。
本当はもっと、ちゃんと考えなきゃいけないのに。
本当はもっと
結衣ちゃんと話をするべきだったのに。
一昨日電話をした時も、
記事云々よりも、もっと言わなきゃいけない事が
あったような気がするのに。
逆に言っちゃいけない言葉を
何か言ってしまいそうで、それが怖かった。
だからあの日は
すごく中途半端な感じで電話を切ったんだ。
「もしもバレてたら…」
翔ちゃんが深い溜め息をつきながら口を開いた。
「マズいよな。コッチが…ってよりは向こうが」
「…うん…」
くしゃり、と前髪を右手で搔き上げながら目を閉じた。
浮かれてた。
最新の注意を払ってる、って自分では思ってた。
だけどやっぱりオレ。
ふわふわ浮かれてたんだ。
“どうして店を変えなかったんですか”
そう冬木くんに言われた時に初めて。
頭ん中がサーッと冷めた。
しまった、と思った。
最初からマンションが張られてた訳じゃなかった。
あの店だ、西麻布の。
結衣ちゃんといつも食事してた、あの店。
雰囲気が良くて、食事も美味しくて。
結衣ちゃんも気に入ってた。
でも何より一番使い勝手がよかった理由は
滅多に他の客とは顔を合わせない“造り”になっている
貴重な店だったからだ。
オレもこの業界の人にあの店を教えてもらった。
それくらいにこの業界の人間が使う店ってことだ。
メリットの裏側にあるデメリットを忘れていた。
あの店が密かに張られていた。
不特定に。
誰か目ぼしいターゲットがいないかーーー。
引っかかったのがオレだった。
1回きりの目撃情報とかだったら
いくらでも誤魔化しようがある話だったのに。
毎回会う店を変えるべきだった。
何度も同じコを連れてきてるとなればーーもうダメだ。
あの店で食事をする時は本当に食事だけで
そのまま結衣ちゃんを連れてマンションに帰る、
なんて不用意な事はさすがにしなかったけど。
それでも“スクープ”を確信した雑誌記者が
そこからオレのマンションを張るようになったらしい
って、冬木くんから聞いてーーー。
愕然とした。
自分の甘さに吐き気がした。
「…でも彼女には絶対迷惑はかけない。オレが全部悪いんだ」
もう既に嫌な想いはさせてしまっているけど。
これ以上は絶対に。
目を開けるとみんながオレの方をじっと見ていた。
ニノもゲーム機から顔を上げてこちらを見ていた。
たぶんここにいる4人は
今のオレの気持ちが
嫌というほどわかっているハズだった。
ーーー“こういう記事”が出た時。
周りから何を言われようが
オレはいつもの通りの「オレ」でいるしかないってこと
いつもの通り目の前の仕事を全力でする、
それしかないってことは正直わかってる。
これまでだってそうしてきたから。
ただ、それができるのは。
自分の気持ちの持ち様ーーそれ以前に。
オレが守られているからだ。
でも結衣ちゃんは違う。
ガセ記事が出て。
自分が今置かれている状況をあらためて思い知って。
オレが1番恐れたことは。
このまま結衣ちゃんと一緒にいればーーーいつか。
いつか、オレは。
彼女から大切なものを奪ってしまうかもしれない。
それがたまらなく怖かった。
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