その電話は突然だった。
女性の声で
「もしもし張り紙の猫、ウチの猫かもしれないんですけど・・・」
一瞬頭の中が真っ白になった。
事故に遭った猫ちゃんを保護してからすでに半年。
近所のスーパーやペットショップに張り紙をお願いしても音沙汰無し。
正直そんな状況の中、もう飼い主さんは現れないと思っていた。
「もしもし・・・」
女性の話によると張り紙の写真からすぐに自分の家の猫だとわかったらしい。
今朝も布団の中から、寒いけれどぬくぬくとした存在に癒されたばかりだった。
もう少し一緒に寝ていたいと云う衝動を抑え
毎日、同じ幸せが続くと思っていた。
「あ、はい・・・」
自分でも気が動転して、とりあえず保護した経緯を説明しながら
頭の中では
(どうしよう、どうしたらこのコを飼い主さんに帰さずに済むだろうか)
と、ばかり考えていた。
もちろん最初は飼い主さんが見つかる事を願っていた。
しかし、時間を重ねるに連れて情が移り
いつしかかけがえのない存在になっていた。
獣医さんから「事故の後遺症が出て長くは生きられないかもしれない」
そう聞かされた後もこの猫が幸せだったと思えるように一生懸命世話をしよう、
いつか来る別れを気にするよりも今の一瞬一瞬に目一杯の愛情を注いであげよう。
そうやって今日まで過ごしてきた。
たしかに最近窓際から外を眺める時間が長くなったので、
飼い主さんの目に触れないかと心配はしてた。
ただ、実際見つかった時と云うのは、想像を遥かに超えて
全く予期せぬ形で、
手放す覚悟の時間さえももらえず
自分の深く愛した存在が突然目の前から去っていく恐怖の方が大きかった。
それでも難しい決断を迫られていた。
動揺はしていたが、ひとつだけたしかな気持ちがあった。
(この猫ちゃんと離れたくない!絶対に別れたくない!)
それだけは嘘偽りない気持ちだった。
事故後の説明も終わって、いよいよ現在猫ちゃんがどうしているのかを話すべき時がやってきた。
電話の向こうでは事故に遭ったことは理解してくれたようだ。
いなくなってから、探していたという飼い主さんの話も声でよくわかった。
そして猫好きだと云うことも。
感極まって上手く説明できないから、と折り返しの電話にすることにした。
実際、事故当時から今までのことが思い出されてきて
こみ上げてきたものもあったからだ。
「後で必ずかけますから・・・」そういって気持ちの整理を図るのが精一杯だった。
それでもいくら後のばしにしても何か話をしなくてはならない。
一人では悩みを抱えきれず、たまらず家族に相談した。
しかしはっきりした答を得られる訳でもなく
最後に決断するのは私なのだ。
それでも何かしらの解決の糸口を見出したかった。
「正直に話して、飼い主さんのもとに帰すか
ウソをついてこのまま飼い続けるかだよ」
元気になったから、逃がしてやりました。
実は、残念ながら亡くなりました。
こう言いさえすれば別れる事はないし勘ぐられる事もない。
電話のやりとりで、事故の事を話したら半ば諦めていたではないか。
最初の電話のやりとりで既に死んだと勘違いしてる節もある・・・。
短い時間だったがとてつもない葛藤があった。
一緒には、いたい
それでも、
それでも・・・
嘘は、つけん・・・!
嘘をついてまで一緒にいてもこの猫は喜ばないし、誰も幸せになれない
それに嘘をついたら今まで善意で関わってくれた人たちに対して失礼になる。
切羽詰まって、追い詰められ自分のエゴのため
誤魔化し、嘘をついてしまいたいと云うずるい気持ちもあった。
たしかにあった。
でも、飼い主さんの立場になって考え、
自分の実家の猫が同じような境遇に遭ったらせめて生きてて欲しいと願っただろう
私が正直に話す方を選択したことを電話の向こうの家族に告げると
それならば正直に話した上で、
このまま面倒を見させてもらえないかと頼んでみてはどうかと提案された。
平常心でもそんな事を言えるかわからないのに、今のこの動揺したままの気持ちで相手にそれを伝える自信はなかった。
家族との電話を終え、
どこまで話せるかは、わからないが
生きて元気に暮らしていることを告げた上で
後日会って話をするための日にちと場所をどうするか考えていた。
とにかく後は対面で話すしかないと決めていた。
そして、いよいよ飼い主さんに事実を話す時がやってきた。
生きて元気にしている事を告げると
心から安心したようだった。
その声を聞いた瞬間、
本当に嘘をつかなくて良かったと思わずにはいられなかった。
もしこの飼い主さんを悲しませたら猫を見るたび自分を恥じ、一生後悔していただろう。
偽りの幸せに心から喜ぶことはできなかったであろう。
電話の向こうの飼い主さんと心を分かち合えた気がした。
お互い、この猫の幸せを願っていたことはたしかなのだ。
自分たちの事情はともかく、
この猫にとって一番幸せだと思えることとは何か?
今後どうするのがベストか?
いなくなった家での半年間。
うちにやってきてからの半年間。
何気ない会話の中に、ふと話を切り出すタイミングにめぐり合えた。
「あの、電話で申し上げるのも失礼な話なんですけど・・・!」
どれだけ大切に面倒を見てきたか
これからも引き続き面倒をみさせてもらえないか
どれだけ自分が勝手なことを言っているのかは重々承知していた。
それでも誠心誠意、自分の気持ちを伝えた。
とにかくこれからも一緒にいたい・・・!
電話で姿が見えない筈だが頭を下げてお願いしていた。
そして、願いが通じたのかどうかはわからないが
はい、よろしくお願いしますと云う飼い主さんの返事に、信じられない・・・!という気持ちと、
安堵と、感謝の気持ちで一杯になった。
その後の会話で、ご近所の方だと云うことがわかり、
夕方飼い主さんがお嬢さんと一緒に猫ちゃんに会いに来た。
人でも、物でも何にでも縁がある。
出会ったときからそうだったが、深い縁でつながっていてくれたことに感謝せずにはいられなかった。
私は決して褒められた人間ではない。
曲がったことが嫌いで自分の価値観やものさしで物事を判断することもある。
間違ったこともするし、面倒臭いことはしたくない。
それでも経験や反省を活かして一日一日をより良いものにしていこう
そう思えるのはこの小さな生き物から「生きる」と云うこと、
「命はかけがえのないもの」だと云う、
とても大切なことを学ばせてもらったから。
人間と猫ではあるけれど、お互い尊重しあう関係を築けていることに
たまらない幸せを感じている。
これからも1分、1秒でも長く一緒に過ごせますように。
とっても長い文章にも関わらず弊ブログの記事を読んでくださった方に感謝!
不器用で偏屈な人間ゆえ、付き合える人間が限られておりますが(苦笑)
たまに気にかけてくださる心優しい方々に支えられております
ありがと!
※
今回はコメント欄なしで。
結構赤裸々に書いた(つもりだ)から、照れて上手く返事する自信がないのですー。
(/ω\)