冒険と探検で世界を綴った百数十年間

 現在発行中の『ナショナル・ジオグラフィック』に携帯用屋根裏というサブタイトルをつけるべきだとアメリカ人がいる。というのは、アメリカ人は『ナショナル・ジオグラフィック』をじっくり読んで、決して捨てたりしない。そして、大切に取っておくというのだ。例えば、屋根裏に、そして、また思い出して、埃を払いながら、ぺらぺらとページをめくると言われている。

 『ナショナル・ジオグラフィック』は全米地理協会が1888年に、地理の普及を目的に創刊した雑誌で、1897年に、アレキサンダー・グラハム・ベルが発行人に就任すると、広く一般の人々にとっても、魅力ある雑誌に変えたいと考え、娘婿のギルバート・H・グロブナーを助手に起用したのである。

 そして、このグロブナーが編集長に就任し、息を呑むような写真を駆使して、幅広い人々にアピールしていった。さらに、地理の写真だけではなく、海底写真、空中撮影、動物の生態写真などはもとより、学術調査、探検にも参加し、記事の内容と質の向上に力を入れてきた。アメリカ人はこの雑誌をバイブルのように大切にし、捨てたり、売ったりしないのである。多くの家庭は本棚や屋根裏に取っておくのである。

 1888年に創刊された『ナショナル・ジオグラフィック』多くの会員に、「世界の窓」を提供してきた。その手段として、カラー写真ができる前に、映画やテレビが現れる前に、うっとりさせるような目撃者の文章と目のくらむような写真を通して、最初に発見した遠隔地での不思議なこと、エキゾチックな風景、世界の見知らぬ人々を主に、家のアームチェアーに座ったままの読者に、自分が探検家になったように感じさせたのである。

 創刊後百数十年間、全米地理協会は科学的知識を広く普及するだけでなく、自然における生態的な考え方を展開するようになり、その考え方が雑誌のページの記事に反映されている。さらに、全米地理協会によって作られた書籍類、雑誌に掲載された記事や写真はいろいろな科学的な研究の成果を発表する探検家のホールとして、探検のヒーローたちの記録を展示してきた。

 血を沸かせる冒険、大災害、大発見、そして、勇気ある探検がこのように注意深く、記録され、記憶がいっぱいに詰まったスクラップブックが『ナショナル・ジオグラフィック』の他に、この100年間に何があっただろうか。

 非常に多くの人々に対して、夢を与えることに非常に重要な役割を果たした団体は全米地理協会の他に、この100年間にどこがあっただろうか。

 『ナショナル・ジオグラフィック』のページを除いて、他のどこで、人々は19世紀の末に、凍った北極圏を横断して、北極点に到達するために水素ガスで膨らませる気球を身につけて探検することを努力した人々の非常に重要なレポートを読めるのだろうか。

 全米地理協会を除いて他のどこで、人々がアメリカの伝説的な編集者の一人であるギルバート・H・グロブナーによる「セイラムの先祖が魔女として地獄に落ちていた」という記事を自由に読める雑誌を提供できるのだろうか。また、他のどこがグロブナーに地理を大衆向けに非常にやさしく紹介したという理由で、レジオンドヌールをフランス大使から授与されるようにできるのだろうか。

 『ナショナル・ジオグラフィック』は1988年に、創刊100周年記念を迎え、100年記念特集号を発行した。100年間に、7000点以上の記事が紹介され、20世紀のいろいろなフィールド・ガイドとして役立ってきた。豊富な写真やイラストレーションを通して、1888年から1988年まで、一度見た世界を再現している。

 このようにして捕らえた瞬間はもう一度、バックナンバーのページをぱらぱらめくることで喜びや楽しみを提供してくれる。『ナショナル・ジオグラフィック』は時間と共に,テーマや世界の見方、そして、写真の出来ばえが変わってきている。同じように、掲載されたルポルタージュも変わってきている。タイトルのスタイルも変わってきている。

 1950年代では、放射性原子を従順とか、友好的な、という呼び方で紹介しているが、現在では、決してこのような呼び方をしないだろう。

 時代における変化は親たちが子どもたちにまごつかされるように、親の昔の姿や言葉が古くさく感じるのと同じである。2~3世代の家族が集まれば、家族全体が歴史の記録になる。このような感じで、『ナショナル・ジオグラフィック』は時代の移り変わりを目撃してきた。

 この百数十年間で、『ナショナル・ジオグラフィック』はすべての人々の社会、多くの帝国、共和国、民主政治、独裁政治より長く生きた。この雑誌の百数十年間をまとめて読み返してみると、読みやすく意図され、多くの特集は最後まで体系づけられている。そして,これをぺらぺらめくることによって、また、偶然に、楽しみと知識を発見する喜びに出会うかもしれない。