Tears of mind

Tears of mind

俺らはきっと、独りじゃない。

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音夜があたしに言った。


「叶えられるか叶えられないかは


わからねぇけど、とりあえず、


飯、食いに行こうぜ。


腹減ったー」


音夜は立ち上がる。


「ちょっと!! 願い事聞くって…」


「だから、腹減ったの!!」


「でも…」


「うっせーなぁ。行くぞ」


音夜はあたしの腕を引く。


…そういうの、慣れてないんだってば…。


バイクに乗って、ヘルメットをかぶる。


「おし。落ちんなよ?」


「うん」


音夜のお腹に腕をまわす。


「んじゃ、行くぜー」


バイクは走り出す。


どこに行くんだろう?


…音夜は一体、何者なのだろうか。


「ねぇ」


「あ?」


「音夜って、何者?」


「あ!?」


「何者なの?」


「何者って…」


「何でバイクに乗れるの?」


「兄ちゃん、見てたから」


「お兄さん、いるの?」


「ああ」


信号が赤になる。


「どんな?」


「はあ?」


音夜があたしを見る。


「どんなお兄さん?」


音夜が悲しい目をした。


「…女なら誰でもよくて、


罪犯すことは平気で、


喧嘩強くて。


俺の兄貴じゃ、ないみたいだ」


信号が青になる。


「お兄さんもバイク乗るの?」


「あったりめーだろ。


このバイクは、兄ちゃんが盗んだやつだ」


「えっ!? ちょっと!!」


音夜はほんの少し笑った。


「嫌なら降りろよ」


「嫌…じゃないよ…」


「はぁ? なんだそれ」


音夜は笑う。


あたしもつられて笑う。


…ああ、いいなぁ…。


こういうの。


なんか、すごく落ち着くや。


「おい。着いたぞ」


「おおっ」


「広島焼きの店だ。うめぇぞっ」


「へぇ~!!」


音夜がヘルメットを勢いよく取った。


「行くぞっ」


「待って」


あたしは音夜のもとに走った。


音夜は、にっと笑った。


「いらっしゃいませー」


お店に入るといい匂いがした。


音夜がテーブルに座る。


あたしも音夜の正面に座った。


「ご注文は?」


「広島焼き2つ!!」


音夜が答える。


「かしこまりました」


店員さんは去っていく。


「で?」


「ん?」


「家出の理由」


あたしの目を見る。


「言ってみ?」


「…うん」


あたしは目線をはずした。


「幼馴染を傷つけた」


「で?」


「それだけ」


「……」


「……」


「はっ?」


「……」


「バカじゃねぇの」


「え」


音夜はため息をついた。


「そんだけで家出?


お前、何なの?


笑っちゃうね」


「何も知らないくせに」


「うん。知らない」


「勝手なこと言わないで」


「じゃあ、詳しく話せば?」


「え?」


うつむいていたあたしが顔を上げると、


音夜と目が合った。


「話してみろよ」


「……」


「俺でも助けられるかもよ?」


「いや」


「あ?」


あたしは笑った。


「死ぬつもりで来たの」


「おまっ…」


「もう、帰る気ないの」


「ちょっ…」


涙が、出そうになる。


あたしはうつむく。


「あたしは生きてる意味ないみたい」


「おい」


「死ねばいいと…、言われたの」


「誰にっ」


涙が落ちた。


「妹に」


「っ」


「最低だよね」


「……」


「あっ…、あたし…」


涙が止まらない。


どうしよう。


あたし…。


あたしっ……。


「自分を責めんな」


音夜の低い声。


「本当にお前が悪いのか?」


「うん…」


「話してみろよ」


「……」


「何があったのか」


「……」


「お前がよければ聞くぜ」


「……」


「お前の気が済むまで」


「…音夜」


「俺もめちゃくちゃ暇だから」


「うん…」


「だから」


「…ん?」


「泣くなよな」


その一言で、もっと泣けた。


「うっ…」


「おいっ。ちょっ」


「えーん」


「おまっ…」


「泣くなって」


音夜はあたふた。


あたしは大泣き。


「お待たせしました。広島焼き2つ…、わっ」


「ちょっと待て。俺は悪くねぇ!!」


「うわーん」


「おっ…、お客様!?」


「ちょっと待てー!!」


店員さんもあたふた。


「いいから、泣き止めー!!」


音夜と店員さんがあたふたする中、


あたしは思いっきり泣いた。


きっと、こうやって、


思いっきり泣きたかったのかもしれない。


嫌だ嫌だと言うこの女。


…めんどくせぇ。


俺は女の腕をつかむ。


女、半泣き。


「嫌だ!! 怖いよ」


「何にもしねぇよ」


「どこ行くの?」


「観光っつってんだろうが」


「ほんとに?」


「ああ」


「……」


あー…。


こいつ、あと、10秒で泣き出すな。


「わかった。来てくれたら俺がお前の望み、


何でも叶えてやる」


「ほんと?」


「ああ」


女は笑顔になった。


「じゃ、行く!!」


「はぁ…」


…ということで、行くことになった。


「……」


「だから、これがいい」


「…いや、だめだ」


「何でよ?」


「…だめだろ」


「何でも叶えるって言ったじゃん」


「そーだが…」


女は、バイクに乗りたいと言った。


俺は、観光に行くっつっても、


電車とか、徒歩とかのつもりだったのに。


…俺はいいけど、乗るお前も同罪だぞ?


わかってねぇな。


「ねぇ」


「あ?」


「お願い」


「……」


「あたし、捕まってもいいから」


「俺が嫌なの」


「むー」


…こいつ、喧嘩しても引かねぇタイプか。


上等だ。


「じゃあいいだろう。乗せてやる」


「うわーい!!」


「そのかわり、メットかぶれ」


「うんっ!!」


上機嫌なこいつ。


…ったく、しょうがねぇぜ。


バイクの後ろに女を乗せると、


俺は走り出した。


「うわっ」


女は落っこちそうになる。


「おい。つかまってろ」


俺は腕をまわさせる。


「いいか? 俺につかまってろ」


女は頬を赤らめて、


「うん…」


と、小さく言った。


俺も後ろに女を乗せるのは、


…初めてだっつーの。


腹にまわったこの腕が、


妙にあったかくて。


…あー、守ってやりたい。


そう、思った。


ちょっとした広場にバイクを止めて、


少し休憩することにした。


女は噴水の近くのベンチに座った。


「いいね!! 快適!!」


「…あっそ」


隣に腰を下ろす。


「ねぇ」


「あ?」


「名前、なんていうの?」


「…名前を聞くときは自分から名乗るんだよ」


女は不思議そうな目で俺を見る。


「…そんなの、どこで覚えたの?」


「…喧嘩…?」


「…へっ、へー…」


なんだこいつ。


はぐらかしやがって。


「俺、音夜」


「おと…や?」


「音に夜で、音夜」


「かっこいいね!!」


こいつ…。


「あたし、雪」


「あ?」


「冬に降るでしょー?」


「ああ」


「それ」


「……」


…説明下手じゃね!?


「いくつなの?」


「さっきから質問ばっかだな」


「だって知りたいもん」


「14」


「えっ?」


「あ?」


「あたしも」


「……」


「……」


おいおいおいおいっ!!!!


何なんだー!!


こいつと同い年かよっ!!


「お前、学校は?」


「何でバイク乗れるの?」


…ですよねー。


「学校休んだ。っていうか、家出中」


「お前っ」


「ちょっと」


「あ?」


「名前で呼んで」


「雪」


「……」


何だよこいつ。


いちいち頬赤らめんなよ。


お前が名前で呼べって言ったんだろうが。


「んで、家出の理由は?」


「……」


浮かない顔。


そんなに深刻な理由か?


「おい」


「言ったら」


「あ?」


「言ったら、叶えてくれる?」


「……」


「あたしの願い」


「……」


雪は切実に、


そう言った。


「雪ちゃん…、どこ行ったんだろ…」


雪ちゃんが家出をしてから1日経った。


僕は、何もしてやれない。


探し出すこともできない。


僕が悪いのに。


僕はどうすれば…。


「おい」


雪ちゃんは…。


「丘知」


今頃何して…。


「丘知!!」


「はいっ」


気がつくと、先生が眉間にしわを寄せて僕を見てた。


「お前、授業中だぞ。


教科書154ページから読め」


「あっ。はい」


僕は教科書を持って立つ。


…今は国語の時間だ。


ったく。


気が気じゃないよ…。


で、結局。


…国語の授業が終わって昼休み。


僕は屋上に来た。


あいにく1人だ。


屋上の柵にもたれかかってため息を吐く。


…はぁ。


今日は学校休むつもりだったんだ。


雪ちゃんを探したかったし、


学校で授業なんか受けてられないと思った。


でも、お母さんが行けって言うから…。


仕方なく来たんだけど、


やっぱりぼーっとしちゃうし。


気付けば雪ちゃんのことばっか考えてるし。


僕は寝転がって空を見上げた。


「大丈夫かなぁ」


声に出して言ったって、


雪ちゃんには届かないだろう。


「はぁ…」


さっきから僕、ため息ばっかりだ。


…雪ちゃんは僕のこと嫌いでも、


僕は雪ちゃんが…


「陽ちゃん」


そのとき、誰かに呼ばれた。


「…蛍ちゃん」


僕は起き上がった。


蛍ちゃんはちょっとだけ笑って僕の横に座った。


蛍ちゃんは雪ちゃんの妹で、


藤前中学校2年だ。


「…お姉ちゃんのことさ、」


「うん」


「陽ちゃんが悪いわけじゃないから」


「…うん」


「自分、責めちゃだめだよ?」


蛍ちゃんは心配そうな顔で僕を見た。


僕は笑い返す。


「大丈夫だよ。責めてないし」


「でも…」


「ん?」


「元気ないよ」


「……」


「どれだけ一緒にいると思ってるの?」


「……」


蛍ちゃんは僕から目線をはずして、ため息を吐いた。


「…ずっと一緒にいるんだから、わかるよ」


「蛍ちゃん…」


蛍ちゃんは立ち上がった。


「お姉ちゃんが悪いの」


少し前に歩いた。


僕は座ったままうつむく。


「…いや。僕が悪いよ」


蛍ちゃんは振り返った。


「何で? 陽ちゃんは悪くないじゃん。


どっこも悪いとこないじゃん!!」


蛍ちゃんは声を荒げる。


けれど、僕は微笑む。


「きっと僕が、悪いんだ」


「陽ちゃん…」


「蛍ちゃんは気にしないで」


「…りだよ」


「えっ?」


「無理だよ!!」


「……」


ちょっぴり涙ぐんでる。


声が、震えてる…。


「蛍ちゃん…」


「あたしは陽ちゃんのことが好きで、


いっつも背負い込む陽ちゃんが心配で、


放っておけなくて…。


1人で何でも、そうやって…。


お母さんのこともそうじゃん!!」


「蛍ちゃん…」


「ぐすん…」


…あーあ、泣いちゃった。


僕は、立ち上がる。


そして。


泣いた蛍ちゃんを、そっと抱きしめた。


「陽…ちゃんっ…?」


「泣かないで。ねっ?」


「…うん」


僕の腕の中で小さく泣く彼女も、また、


1人で不安を抱え込んでいたんだろう。


「ぐすっ…」


「よしよし」


僕は頭を撫でてあげた。


…ねぇ、雪ちゃん。


このままでいいの?


蛍ちゃん、泣いてるよ。


帰ってきてよ。


帰ってこないつもりなんでしょ?


僕にはわかるよ。


…死ぬなんて言うなよ。


僕は蛍ちゃんを離すと、涙を拭いてやった。


「大丈夫。ほら、戻ろう?


昼休み、終わるからね」


そう言うと、蛍ちゃんは笑って


「うん」


と言った。


…もしかしたら、雪ちゃんは、


遠いとこに行ったのかもしれないな。


僕が行けそうにもない、遠いとこに。


目を覚ますと頭が痛かった。


…尋常じゃないくらい。


「痛っ…」


目の前は天井。


ってことは、自分、寝てるのか。


誰がここまで運んだんだろう。


…何が、あったんだっけ…。


わからないことだらけだ。


とりあえず、起きてみよう。


体を起こして周りを見回した。


「ここは…?」


今、あたしが乗っかってるベッドとテレビと、小さな机。


それ以外は何も置いてない。


あと、大きなクローゼット。


…シンプルな部屋だ。


窓があるけど、カーテンもなくて。


生活感がなくて…。


まるで、体を休めるための部屋…。


ガチャ


「目ぇ、覚めたか」


ドアのほうを向くと、男の子が1人部屋に入ってきた。


「大丈夫か」


「はっ?」


「頭だよ」


「あっ…、あー。うん」


「そうか」


その子はベッドに腰掛けた。


あたしの隣に。


なっ、何だろう…。


男の子は黙ったままだ。


あたしは男の子を観察した。


この子、髪が赤い…。


それにピアスをいくつも…。


だけど。


だけどこの…。


「バイクで」


「はっ?」


何だ?


急に喋り始めたぞ。


「ぶつかっただろ」


「……?」


男の子は一瞬こっちを見た。


「俺と」


「……?」


男の子はあたしを見た。


「覚えてねぇの?」


…かっこいい。


整った顔立ちで少し幼い気がして。


きれいな肌にきりっとした眉毛。


見惚れていると、


「おい」


怒られた。


「すいませんっ!!」


条件反射で謝った。


「はぁ?」


すると、睨まれた。


…何かを間違えたのか?


あたしが黙り込んでいると、


男の子は呆れたようにあたしから目線をはずすとこう言った。


「俺がバイクでお前を轢いた」


あー、そうだっけ?


そうだっけか。


「…そんなような気も…しないでもない」


「ごめん」


「はあ」


「俺が悪ぃ」


「はあ」


それだけ言うと男の子は煙草をくわえた。


……。


…え?


話、おしまい?


ちょっと!!


まだまだ話すことあるでしょうが!!


なんなんだこの子!!


天然かっ!?


天然なのか!?


あたしは床に目を落とした。


どういうことだ?


謝って終わりか?


おいおいおい!!


ここから出してくれー!!


ぎゃーっ!!!!


…ん?


煙草の匂い…?


そのとき、


「痛っ!!」


急に頭が痛くなった。


「おいっ」


頭を押さえてみると、包帯が巻かれてた。


誰が、巻いたんだろう?


それより、頭痛い…。


「大丈夫か?」


「煙草…」


「は?」


「煙草やめて…」


「ああ、ごめん」


男の子はすぐに煙草を消した。


「煙草、苦手か?」


「いや…。なぜだか急に頭が痛くなって」


「病み上がりだからか?」


「わからないけど」


男の子はあたしの目を見た。


何だ…?


「俺、お前を轢いたとき、怖くて」


「……」


「逃げようとした」


「え」


「けど、声して」


「ん?」


「お前の声がした」


「あー…」


「病院に連れてったほうがよかっただろうけど、


警察に捕まるの嫌だし、金ねぇし」


「……」


おいおい。


そういう問題かよ。


「だから俺が応急処置した」


…じゃあ、これは君が巻いたのか。


「…ありがとう」


「いや。別に」


優しいな。


って、思うあたしはバカだろうか。


「ところでお前」


「……?」


「どっから来たんだ?」


「……」


「見かけねぇ顔だ」


「……」


「ここら辺の奴じゃねぇな」


「……」


「おい」


「……」


「聞いてんのか?」


何かこの人、怖いよ。


もっと優しい言い方あるでしょ…。


「家出」


「あ?」


聞こえなかったのかな。


「だから…い」


「何で?」


「え」


「何でだよ?」


「それは、言えない」


「……」


「……」


「どっから?」


「愛知」


「はぁ?」


…いちいちこの人、言い方怖いな。


「ここはどこだ?」


「…広島…です」


「はぁ…」


男の子はため息を吐いた。


何か悪いことでも?


うんざりしたように口を開く。


「またなんで広島に?」


「…なんとなく」


「はぁ?」


む…。


「お前、バカか」


「っ」


なんて失礼な!!


むかつく。


「…もういいです」


「あ?」


「出てきます。ありがとうございました」


「ちょっ」


あたしは立ち上がって床に置いてあったかばんを取った。


そしてドアノブに手をかけると、


「待てよ」


手をひかれた。


「きゃっ」


男の子の目を見る。


…ドキドキする。


「お前、広島初めてか?」


男の子が言う。


「うん…」


「その面見りゃわかるぜ」


手を離された。


…なんなのよ。


男の子は目を閉じた。


「ん~。じゃあ…」


「……?」


「……」


「……?」


「よし」


男の子は目を開けて、


あたしの目を見て真っ直ぐに


「俺と観光すっか?」


そう言った。


チャラ…


バイクの鍵を差し込む。


俺はバイクに跨った。


…どうせ、兄貴のだ。


どうにでも使っていい。


あぁ、また一走りしてくるかな。


夜の世界の風を切ってくる。


…現実から逃げるために。


静かな街を静かに出てった。


毎日のことだ。


当たり前のように無免許運転。


兄貴を見てりゃあ、こうなるわな。


俺には5歳年上の兄貴がいる。


兄貴は今でも無免許でバイク乗り回してる。


…誰かのバイクを。


兄貴が盗んでくるんだ。


それを俺はもうどうとも思わないし、


俺さえもそのバイクを乗り回してるんだ。


同罪さ。


兄貴は毎晩女のとこだ。


1ヶ月に1度、家に帰ってくるかこないか。


…そういや最近兄貴見ねぇな。


まぁ、いっか。


俺は無駄にエンジン吹かして、乗り回す。


信号なんて無視だ。


今、何時だ?


12時過ぎ…か。


ちっとも眠くねぇな。


そう思いながら、ケータイを眺めてポケットにしまおうとしたとき。


ドンッ


何かにぶつかった。


バイクは倒れた。


俺はバイクから転げ落ちた。


「痛っ…。なんだよっ」


ケータイしまおうとちょっとよそ見しただけだろうがよ。


一体、何にぶつかったっつーんだ?


少し離れたところに俺のバイク。


少し離れたところに俺のケータイ。


…ケータイ、壊れてねぇか?


手から飛んでったんだな。


俺はバイク無視してケータイを取りに立ち上がった。


…ん?


あたりは暗くてよくわからなかったが…。


よく目ぇ凝らして見てみると、


「女…?」


女が倒れてる。


「まじかよっ」


俺は駆け寄った。


「大丈夫かよ? おい!!」


体を揺らすが、反応がない。


おい、死んだか…?


そう思ったとき、寒気が襲った。


汗が伝った。


人を殺してしまったかもしれないという現実が、


俺を襲った。


怖くねぇ。


怖くなんてねぇ。


そう思ってんのに、その場から動けない。


俺は…。


俺は……。


逃げようと、思った。


もう、目の前の光景に耐えることができなかった。


血が、俺の手を濡らした。


「あ…。あぁ…」


体が震えた。


震える膝で立ち上がった。


思い切り走ろうとした、そのとき。


「痛い…」


そう、小さな声が聞こえた。