「うわぁ〜。まろやかでトロンとしている」

夢見るような軽い味だった。

「うふっ。玉露です」

たぬきの子どもが愉しげに答えた。

「美味しい!この葉っぱもそうなるの?」

ワクワクしながらあつこは尋ねたが

答えはガッカリするものだった。

「その葉では無理です。

玉露になるのはあちらのように

黒い幕で覆った茶園の茶葉を使わないと」

「そうか…じゃあ、これはどうしたらいいの?」

「電子レンジとホットプレートで製茶できますよ。

ちきりやさんのホームページにとても簡単で

分かりやすいのが載ってますので

URL をLINEしますね」

と言うやいなやあつこのスマホが鳴った。


「楽しそうやけど、茶葉の量が多くないと出来ひんね…」

「だったら天ぷらは?」

「それなら栄養も丸ごといただける」

「小麦粉と片栗粉と上新粉を同量混ぜるのが

カラッとあがるコツですよ。

あとは180度の油で片面だけパッと揚げて

出来上がりですし」

「早速帰って天ぷら揚げて

おばあちゃん宅に持って行くね。

たぬきの母さんたちが

無事だったって知らせてあげたいから」

「はい。是非是非。

おばあさまには私たちもお会いしたいです。

くれぐれもよろしくお伝えくださいませ。

それからこれ」

たぬきの母さんは新茶の玉露をお土産にと

あつこに渡した。

「ありがとうございます。

おばあちゃんと頂きますね」

袋の中を見ると何やらメモが入っていた。

〝茶殻の佃煮〟
・茶殻100gにお醤油砂糖各大さじ1と酒小さじ1を一緒に煮る。
・適当な時間煮たらみりんと蜂蜜各小さじ1を合わせ、水分を飛ばしたら出来上がり。

「相変わらず至れり尽くせりですね」

あつこは照れ臭そうなたぬきの母さんを

もう一度ギュッと抱きしめて

茶畑を後にした。

《おしまい》

おばあちゃんが出てくるお話『よもぎの頃』は