倉庫の奥の部屋には広口瓶がズラーッと並んでいる。

「これ全部に?」
「はい」
そこへ「ちわーっ、氷砂糖とリンゴ酢持ってきましたよ」とよもぎ餅作りの時のきな粉屋のご主人がやって来た。
「ありがとうございます」
お礼を言って新しい割烹着を被るとたぬきのお母さんは続けた。
「瓶の消毒は済んでいますので始めましょう。梅1㎏と氷砂糖1㎏を交互に瓶に詰めていくだけですからね。ビニール袋1つは1㎏分です」
至れり尽くせりな準備にあつこは
「さすが〜」としか言いようがなかった。

キュッキュッキュ。
瓶の底に青梅を並べて

ガラッガラッガラ。
氷砂糖を並べる。

その上にまたコロンコロンと乗せて、ガラッガラガラッと氷砂糖…

これを何度も何度も繰り返して一面に並んだ瓶の全てに中身が入った。

次はその半分にリンゴ酢を注いでいく。

スワー、シュクシュク

室内にお酢の香りが広がる。
口の中にも酸味を感じてあつこは何度も唾を飲み込んだ。

「あつこさん、これどうぞ」

たぬきのお母さんはどこかの水の色を映したようなグラスを乗せたお盆を差し出した。
「ありがとう。いただきます」
一口飲んで、トロンとした甘さと爽やかさに魅了された。
その後は一気飲みだった。
口の中の余韻を楽しみながらグラスを眺めた。
「それは琵琶湖の畔に住む友人が作ったんです」
「へぇ〜。道理で素敵やわあ。琵琶湖の水の色なんやね」
「さすがあつこさん。その名も〝みなも〟というのですよ」

それを見るあつこの瞳も琵琶湖の色を映したようだった。

別世界に誘われそうになっていたあつこの足元にたぬきのお母さんは「これどうぞ」と二つの瓶を置いた。

「赤いシールの貼ってある方がシロップで青い方がサワーです。1日1回♪青梅青梅おいしくなぁれ〜♪と歌いながら揺すって下さいね」

「分かった。ありがとう」
両手に瓶を下げてあつこは歌いながら帰って行った。

〜おしまい〜