たぬきのお母さんは横で作業をしながら歌を歌っている。


♪青梅 青梅落ちないで 
私のカゴに入ってね♪

しばらくしてあつこは言った。
「別にいいんやけどね、テレビのニュースとかでよく見るのは、下にネットとか敷いてあって、落ちたのを掻き集めたはったような気がするんやけど」
「それも悪くはないんですけど、私、虫が苦手なもので…」
「虫?」
「落ちたのには〝ケシキスイ〟という虫が付いていたりするから、私は直接、木からとるのです」

そうこうするうちにカゴはいっぱいになり、倉庫へ運んだ。

「明日も同じ時間に来てもらえませんか?」
「うん、いいよ」

西陽を受けて帰るあつこを見送った後もたぬきのお母さんは大忙しだった。

近所のママ友に声をかけ、子だぬき達も総動員して、せっせせっせと青梅を洗う。そして水に浸けておく。ここまでやってみんなには帰ってもらった。
その数時間後、たぬきのお母さんはまた、倉庫でゴソゴソしていた。
おへそを下にして並べて乾かしておいた青梅のおへそを取って、残っている水気を拭き取り、ジッパーのついた保存用のビニール袋に入れた。
その袋をお母さん自慢の超巨大冷蔵庫の冷凍室にそっと並べて、一晩寝かせます。

「お母さん…ぬきの…かあ…ん」

何か呼んでいる。

ぼんやりとした頭に誰かの声がじわじわと入ってきて、たぬきのお母さんは目を開けた。
しゃがみ込んだあつこが心配そうに顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「あ、ハイハイ、大丈夫ですよ」
「でもこんなところで…」
「青梅を冷凍していて、そのまま眠ってしまったみたいです」
たぬきのお母さんは照れくさそうにシッポをパタパタと早く振った。
「あー良かった!公園で待っていたけど全然姿が見えないから入って来ちゃった」
「よく入れましたね」
「一か八かで昨日の歌を歌ってみたの」
「昨日の?」
「♪青梅青梅落ちないで 私のカゴに入ってね♪そしたら梅の木さんの間がスーッと広がってこの倉庫に繋がってたの」
「そうでしたか!では梅シロップと梅サワーを作りましょう」
「それなんだけど、どう違うの?」
「梅シロップは梅と氷砂糖、梅サワーはそこにお酢を加えます」
「そうなんだ」
「じゃ、お手伝いお願いしますね」