イタチはその時の様子を語り始めた。


「ふんわりとした春の気に包まれたある夜のこと。

わたしはとある家のお仏壇からお供えのよもぎ餅をひとついただきました。

ところが運悪くその家の主に見つかってしまいました。

あわてて逃げ込んだ先が隣りのおばあさまのお宅でした…

ほっとしたのもつかの間。

先ほどの主が、〝イタチがいるから退治してやる!〟と大声で息巻いて乗り込んできたのです。

もう心臓はバクバクでしたが

〝うちには来てませんよ。お引き取りください〟
と追い返してくださったのです」


私は思わず

「単に気がついていなかったんじゃないの?」と尋ねました。

すると

「いえいえ、そんなことはありません。

なぜならお隣さんが帰った後、

下駄箱の前にかがみこんで、

下の奥の方にうずくまっているわたしに向かって

〝出てらっしゃい〟と声をかけてくださったのです」

続けて

「おずおずと出て行くと

〝あなたはよもぎ餅が好きなの?〟

と尋ねられ、うなずくと

〝これも持ってらっしゃいな〟

と竹皮の包みをくださったのです。

おばあさまのよもぎ餅の美味しかったことおいしかったこと。

冬の滞りを送り出す苦味がちゃんと残っているのに、ウキウキ動き出す春の力と絶妙なバランスを保っていたのですから!」

イタチは遠くを見つめ、その目には幸せな色が浮かんだ。

「それから毎年、わたしたちはおばあさまのよもぎ餅をいただいているのです」

言い終えるとイタチは何かを思い出したらしくソワソワしてよもぎを摘み出した。

そして

「あなたも摘んでください」と

どこから出したのか蔓で編んだ籠を渡された。

♪やらかい新芽はやらかい心♪
♪硬い葉っぱは頑固者♪

イタチは歌いながらよもぎの若い葉先だけを籠に入れていった。