二つ折りの〝おばちゃんスタンプカード〟の内側には、五つのマス目があった。

それぞれのマス目に〝職人さん〟〝アートさん〟〝きれい好きさん〟〝きっちりさん〟〝ラッキーさん〟と書かれていた。
なんじゃこりゃ。
本は嫌いなわけじゃない。
塾でも月に最低三冊は読んで、感想文を提出する課題がある。
中には面白い本もあるけれど、細かい字ばっかりが続くと体がゾワゾワして、眠くなる。やっぱり、サッカーやドッジボール、色オニとか三角ベースで体を動かしている方が楽しい。

でもこのカード、なんだか気になる。
天気予報では明日は雨のようだ。となると外では遊べない。5週目の火曜日だからサッカースクールもない。
〝おばちゃんスタンプ〟
どうやって集めるんだろう。
とりあえず明日、図書室へ行ってみよう。


僕のいる六年三組の教室と図書室は、同じ北校舎の四階と二階にある。
階段にはところどころぬれた泥のくつ跡がついていた。二階に下りると、さすがに雨の日は他にやることがないのか、図書室の入口にはたくさんの上ばきがぐちゃぐちゃに置かれていた。

図書室の中では知らないおばさんが黒板の溝をぞうきんでふいている。

先生かな?
わからないのでとりあえずあいさつだけして通り過ぎようとした時、その人が僕に、
「上ばきをそろえてください」と言った。
「えっ?」
「どうしてですか?みんなぐちゃぐちゃに脱いでいるから、別にこのままでいいんじゃないですか?」
「よくありません」
「なんで僕に言うんですか?全員に言えばいいじゃないですか」
「いいからそろえてください」
「面倒だし、いやです」
僕が言うと同時に、
「…ンプ」と聞こえた気がした。その人の顔を見ると小さな声で
「おばちゃんスタンプ、押しますよ」
と言った。まだよくわからなかったけれど、そろえた方がいい気がしたので、そうした。全部で25人分あった。
すべてのつま先がろうかに向いた上ばきを見ると、この方が気持ちがいいかもしれないと思った。

〝おばちゃんスタンプカード〟を出すと、
「はい、よくできました。次もがんばってくださいね」
と〝きっちりさん〟のところにスタンプを押してくれた。

ふーん。この人が〝きっちりさん〟なんだ。
でも〝次もがんばってください〟とはどういうことだろう。
聞きたかったけれど、図書室から出ていく下級生が、
「わー上ばきがそろっている。きれい」
「はきやすい。ありがとう」
と喜んでくれたのでうれしくなった。
とっさに、
「次は自分でそろえてね」
と言っていた。
その後あわてて周りを見たけれど、〝きっちりさん〟はもういなかった。