首元に銀色のビジューのあしらわれた白い薄手のセーターに黒のフレアスカート。
体型維持に興味がなくなり手を出したおばさん必需品のゴムウエストだが、全くそうは見えないデザインと絶妙な膝丈なのを真由美は気に入っていた。
黒いストッキングにロングブーツ、ベージュのコート…せっかくの休みなのに、銀行の窓口に行くと思うと通勤時の服装と何ら変わりがないのが少し可笑しかった。


使い慣れた店舗ではあるが、ATMコーナーから更に奥へと自動ドアを入るのは随分と久しぶりだ。
「いらっしゃいませー」
営業用の挨拶と分かっていながらも自分に視線が注がれるのはいつまでたっても慣れない。

発券機の赤いボタンを押す。
ここで一瞬躊躇する。

先客はいないのだからどうせ直ぐに窓口に呼ばれるのだが、前に立っているには少し間があるからだ。
ナンバーの印字された紙を手に、待ち合いのイスの方へ身体の向きを変え、一歩踏み出したと同時に真由美の番号を告げる機械音声が流れた。

「息子の口座を作りたいのですが…」
「息子さまとお母様の本人確認出来るものはお持ちですか?」
「息子の保険証と私は免許証があります」
「では」と保険証を手に取った、今売り出し中の若手女優と同じ髪形の行員が、端末を軽快に操作する。
その指先に色がないのに真由美は仄かに安堵した。
先日印鑑証明を取りに行った役所の窓口の女性陣の指先には、ピンク色と白のマーブル模様や黒と白のツートンカラーに銀のラメで雪の結晶が載せられたものなど、様々なジェルネイルが施され大変煌びやかだったからだ。
「全くのご新規でらっしゃいますか」
目が見開かれたところを見ると、今時の新規客は珍しいのだろう。

「はい。他の家族はみんなあるんですが、この子のだけはまだなかったんです。」
意味があるんだかないんだかの返事をする。
颯爽と必用書類を並べようとしたものの、思った位置に無かったらしく
「ご準備出来たらお呼びします」

声がさっきまでとは幾分かトーンダウンしていた。